人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

心理学前史1|心理学における哲学の影響

2021/12/10
 
この記事を書いている人 - WRITER -
哲学エヴァンジェリスト。 東洋哲学や西洋哲学問わず、面白い哲学をあなたにお伝えします。
詳しいプロフィールはこちら


どうもこんばんは、高橋聡です。最近はつとに寒くなってきました。12月も近いので当たり前といえば当たり前ですが、朝起きると暖かい布団から出たくなくなりますね。

さてこのブログでは前回、20世紀前半までの心理学の大まかな流についてみてきました。大きく4つの時代に分けて、解説をしました。次の4つの時代でしたね。

  1. 前心理学の歴史1|アリストテレス・ロック・ヴォルフ・カント
  2. 前心理学の歴史2|進化論・精神物理学・大脳生理学
  3. ヴントと近代心理学の成立
  4. 心理学の3つの潮流|ゲシュタルト心理学・行動主義・精神分析

このうちはじめの一つ、前心理学の歴史1を今回は見ていきたいと思います。

なお、このおおまかな流れは次のページにあります。リンクを貼っておきますのでまだ見ていない方はみてください。

では今回の内容をみていきましょう。

アリストテレスの心の機能論

まず心理学の前史として一番最初に名前があがるのがアリストテレ(紀元前4世紀頃の古代ギリシアの哲学者)です。アリストテレスは心理学という言葉を直接つかったわけではもちろんありません。とはいえ、アリストテレスは一連の著作の中に、『魂について』という小論があります。これは心の機能を解説しようとした論文でして、現在の心理学的アプローチとは全く異なりますが、一応心について触れられた作品として紹介されることが多いです。

総じてヨーロッパ古代の時代、つまり古代ギリシアやローマ、そしてキリスト教の影響の大きかった中世においても、心理学という学問があったとはいえないし、ほとんど心理学に関係のある考え方などもなかった、といえます。

現在の心理学の直接の源流となる哲学は、ルネサンス以降、特にデカルト以降に展開された哲学であるということができます。

デカルトの自我論と理性主義からヴォルフの哲学的心理学まで

 

フランスやドイツなど大陸の哲学は理性主義合理主義として総称されることが多いのですが、その大きな流れをつくったのがフランスの哲学者デカルトです。デカルトのコギト、「われ思うゆえにわれあり」という命題は有名です。この言葉に代表されるデカルトの哲学は方法的懐疑の行き着く果てに自我があることを発見し、そこから思考をはじめた哲学でした。理性主義の哲学の流れでは、生得観念が大事だとされていました。生得観念とは、生まれつき人間のそなわっている観念のことで、これらを重視することで理性のうちから感覚を排除する結果になってしまいます。

単語としてPsychologyという語が使われはじめた大事な時期にいたのがドイツの哲学者ヴォルフです。『経験的心理学』と『理性的心理学』という二つの著作を出しましたが、後者は理性主義に関係する心理学であり、前者はこのあとにでてくる経験主義と関係の深い心理学ということになります。ヴォルフ自身はライプニッツに連なる理性主義的哲学者ではありました。それはともかく、心理学という言葉が使われはしていても、「魂の学問といったような意味での心理学であり、時代の限界は感じさせます。とはいえ、表象や思惟など心の現象として学問的に取り扱う姿勢が見られるのはヴォルフの特徴といえるでしょう。

ロックの経験主義と連合心理学の流れ

対してイギリスでは、ロックからはじまる経験主義の考えを大事にします。経験主義とは簡単に言うと、私たちが経験によって観念を作り上げると考え、経験の源泉である感覚や情動を重視します。ロックは人間の心は生まれたときには白紙の状態で何も書かれておらず、経験とともに書き込まれているのだ、と主張します。これをブラ・ラサとしての心と呼ばれます。と同時に、ロックは心に書き込まれた観念同士が結びつくことを指摘し、観念の連合が起こっているのだと説きました。連合は心理学における学習理論の原点ですが、誤った考え同士が連合することもありえます。同じ観念であっても、人それぞれ観念連合が異なり、これが個性となる、というのがロックの個性の捉え方です。

このロックの経験主義的な考え方を進めた人物として、バークリーやヒュームがいます。アイルランド国教会の主教であるバークリーは、物が存在するのではなく、知覚される限りにおいて物は存在すという立場をとりました。バークリーによれば、事物のうち、感覚が捉えられるものだけが存在して、感覚の主体は精神です。精神と感覚しか存在しないと言っていると捕らえられ、一種の独我論と論敵からはみなされました。しかしバークリーは感覚と精神の正しさを保証するのは神だといっており、その点で信仰を持ち出します。

神の存在を前提とする経験主義から神の存在を抜き取って無神論的経験主義を唱えたのがヒュームです。ヒュームはすべての知識は感覚に基づくと主張します。ヒュームによると、知覚は感覚の束に過ぎず、因果関係など憶測にすぎないといいます。ヒュームは因果関係も観念連合で説明しようとします。類似した観念は連合し、近接して起きた概念もまた連合するというのです。こうして連合の概念は研ぎ澄まされました。

連合心理学を完成させたのがベインと、それを受け継いだスペンサです。ペインは“Mind”という雑誌を発刊しましたが、連合心理学発展の場というよりも、近代心理学成立の礎の場としてこの雑誌は働くこととなりました。

カントの冷や水事件

心理学は当時の科学化の流れにのろうとしていました。これに冷や水が浴びせられる事件がおきます。ドイツの有名な哲学者イマヌエル・カント実験と数式を取り扱えない心理学は科学ではない、と著書の中で言ったのです。この批判を乗り越えるために心理学は実験や数式による表現を模索するようになった、という側面は多いにあります。だからこそ、カントもまた心理学の発展に必要なキーパーソンの一人だということができるでしょう。

ヘルベルトの表象力学の数値化などから心理学を科学にしようとする試みがありましたが、これはうまくいきませんでした。

生理学の実験に範をとり、実験を重視して心理学を科学にしようとする動きがアメリカとドイツでほぼ同時期におこりました。アメリカのウィリアム・ジェームズドイツのヴントがその旗振り役であり、同時に周りから信望される人物でした。

氏か育ちか論争

ヨーロッパにおける理性主義と経験主義の対立は、心理学にも影響を残しています。理性主義=生得説と経験主義=経験説との対立といえば、ずばり遺伝の影響を大きいと考えるか、育てられた環境が大きいと考えるかということにもつながってきます。

以上、今回は心理学前史1についてみてきました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

この記事を書いている人 - WRITER -
哲学エヴァンジェリスト。 東洋哲学や西洋哲学問わず、面白い哲学をあなたにお伝えします。
詳しいプロフィールはこちら

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© ニーチェマニア! , 2021 All Rights Reserved.