人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

社会学について7〜シカゴ学派2・逸脱行動の研究

2018/02/17
 
この記事を書いている人 - WRITER -
哲学エヴァンジェリスト。 東洋哲学や西洋哲学問わず、面白い哲学をあなたにお伝えします。
詳しいプロフィールはこちら

どうも哲学エヴァンジェリスト高橋 聡です。今回はシカゴ学派の業績でもかなり有名な逸脱行動の研究について見ていきましょう。

逸脱行動の研究

シカゴ学派を語る上で逸脱行動の研究は欠かせません。

一般に逸脱行動とは、それぞれの社会や集団が共有するルールや道徳的基準から外れることを意味します。具体的には、犯罪、非行、精神錯乱、薬物やアルコール中毒などですが、その原因は逸脱者本人にある婆もありますが、その逸脱者が所属する組織(社会)に起因する婆も多いので、社会学のテーマとなりました。

伝統的な逸脱行動理論

エドウィン・サザーランドは犯罪が「学習された行動」であることをホワイトカラーの犯罪研究などから示しました。それまでは犯罪者は下層階級に集中するという通念がありましたが、犯罪者との接触を通じた学習によって犯罪が起こることを明らかにしました。

このサザーランドの研究は、遵法的文化から隔絶した犯罪的文化に接触することで犯罪行動が生じるという意味で「分化的接触理論」と呼ばれます。

逆に「生まれ」が社会的環境を作っているという説もあります。コーエンは下層階級出身の少年たちに共通する反抗的な文化を研究して、非行はこうした下位文化との接触が原因だと主張しました。コーエンによると、下層階級の少年たちは中流階級文化に対する反動として非行下位文化を形成し、これに同調することで犯罪が生じると説明しました。

ベッカーのラベリング論

シカゴ学派のベッカーは『アウトサイダーズ』(1963年)の中で逸脱行動に関するラベリング論を提示しました。ベッカーによれば、社会集団は構成員が守るべき規則を設け、これに違反した者にアウトサイダーのラベルを貼って逸脱を生み出すのだと言います。さらに逸脱者の側も、一度逸脱者のラベルを貼られると社会参加が拒まれるので、自分自身を「逸脱者」として自己規定するようになります。

実はこのラベリング論にはレマートの先行研究の業績があります。レマートは『社会病理学」(1951年)で無自覚的・偶発的に生じる第一次逸脱と自覚的に生じる第二次逸脱を区別しました。これは第一次逸脱行動によって犯罪に及んだ者が、その後に起きるスティグマの付与など社会的反作用により逸脱が本人のアイデンティティまで及ぶために第二次の逸脱行動を起こすというもので、ラベリング理論に先行する理論と言えます。

このラベリング論はそれまで「逸脱的行動」とみなされていた現象を別の視点から見る意義を提供した。

第一に、逸脱を単に規範から外れた行動と単純に決めつけるのではなく、逸脱者と非逸脱者の間に生じる相互行為として解釈している点で画期的でした。それまでの逸脱研究では、逸脱者本人や逸脱者の所属する社会に問題があるとされたのに対し、逸脱を生み出す社会全体のあり方にもラベリング理論は目を向けさせました。逸脱というラベルを貼っているのはその社会の権力構造であるかもしれないという指摘です。

第二に、逸脱的な行為は客観的に存在しているのではなく、多くの人がそう思っているだけだという視点です。これは我々自身も、いつ逸脱者のラベルを貼られてもおかしくない状況を意味しています。

第三に、研究者の視点変更を迫るものになりました。研究者も知的権力者であると考えれば、研究者は単にその社会の逸脱とされていることをなぞるだけの理論ではなく、その社会との間に距離を置いて客観視する必要があります。

研究者が逸脱を論じること自体が、科学という名のもとに偏見や差別を再生産する可能性があります。上手に論じなければ、地上生活を構成している規範や習慣を解体してしまう可能性もあり得ます。

この視点変換は、社会構築主義という新しい思潮を生み出しました。

まとめ

犯罪などの逸脱行為について論じることの難しさがわかりました。逸脱というラベルを貼るのは権力者たちかもしれないのです。

研究者を知的権力者としてみれば、逸脱を簡単に論じることは許されません。むしろ、しっかりとしたデータと推論を持って論を進めなければいけません。

ラベリング理論はきわめてわかりやすい理論です。非逸脱者の中にいた人が、なんらかのきっかけで逸脱者としてラベルを貼られ、それが逸脱を生み出しているという指摘は確かに現代日本にも当てはまると思います。特に日本では犯罪者の社会復帰が難しい国ですから、逸脱を生み出す負の連鎖が働いているといっても過言ではないかもしれません。

この記事を書いている人 - WRITER -
哲学エヴァンジェリスト。 東洋哲学や西洋哲学問わず、面白い哲学をあなたにお伝えします。
詳しいプロフィールはこちら

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© ニーチェマニア! , 2018 All Rights Reserved.