フロム『自由からの逃走』を読むための用語解説/ フロイト(1856-1939)、精神分析 p154 |『自由からの逃走』14
フロイトの精神分析
フロイトの行った臨床精神医学的な実践とその経験から理論化された理論を総称して精神分析といいます。さらにフロイトの精神分析的手法を取り入れて発展させてきたいわばフロイトの後継者たちの実践や理論も精神分析に含めることがあります。
精神分析の二つの特徴
その理論的な特徴はフロイトの生きた時代によって実際は異なります。ここでは特に前期フロイトの外せない特徴を二つ挙げておきます。無意識を分析対象とすること、性的欲求から生まれたリビドーの理論の二つです。
無意識
無意識は意識していないが、実際には人間の考えていることの中に含まれる領域です。無意識的に考えている内容を治療に活かそう、というのがフロイトの精神分析の最も大きな特徴となります。実践的特徴として、臨床の場で頭に思い込んだことをまとめずにすべて声に出してもらう手法があります。これは自由連想と呼ばれる手法でして、無意識から浮かび上がってきた言語化情報を意識がフィルターを通していろんな情報を取捨選択していくわけなんですが、意識のフィルターを通る前に連想したことは、無意識に近い情報だ、という考え方です。
この無意識を発見したのがフロイトの最も後世に影響を与えた部分です。弟子でのちに喧嘩別れしたドイツの心理学者ユングやフロイトの娘アンナ・フロイト、新フロイト主義のフロム、さらにアメリカの無意識を考察対象とするルース・ベネディクトなどの文化人類学、クロード・レヴィ=ストロースの構造人類学、ポストモダニズム、さらには無意識を対象に考えたすべての学問領域に本当に大きな影響を与え続けました。
リビドー論
もう一つの特徴がリビドーの理論です。特に無意識の領域を説明する際に前期フロイトが良く用いた理論がリビドーの理論です。リビドーとは性の欲動のことです。欲動とは人間の精神活動を動かすようなエネルギーのことで、フロイトはリビドーを自己保存の欲動とならぶ人間に根本的な欲動として重視しました。
リビドーには自己へ向かう自我リビドーと、自己以外の外部のものへと向かう対象リビドーがある、とフロイトは主張しました。
フロイトは最初期において、リビドーこそが最も大きな欲動であり、無意識を構成する最も重要なものだと考えている節がありました。中期においてはリビドーと自己保存欲動を包括する概念である、生の欲動(エロス)を考え出しました。快を求めて不快を避けようとする快感原則(功利主義的な発想とよく似ています)が生命の成長、発展を促すと考えました。その後少しして、フロイトはタナトスという死の欲動を提唱します。タナトスは生命に内在する生命が発生する以前の無機的状態へと向かう欲動のことです。自殺念慮、希死念慮、苦痛を求める症状などの精神病、神経症などはこのタナトスに由来するとフロイトは考えたのです。
どれも健康な人間においては、不均等ではあるものの生の欲動であるエロスと死の欲動であるタナトスが拮抗してなんとかバランスを保ちながら生活している、とフロイトは考えるのです。ところがどちらかの欲動が優位になりすぎて暴走しだすと、精神病や神経症が発症する、とフロイトは考えました。