人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

企業理念についての質問に答えて

2022/09/07
 
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まず答えを先に言ってしまうと、経営学を問わず、古代ギリシャの自然哲学の時代から連綿と続く西洋の知的伝統においては、上位概念は最も抽象性が高いものがおかれることが非常に多いんです。つまりミッション⇒ビジョン⇒バリューと左のほうが抽象度が高いと考えられます。でも意味だけで考えるとミッションとビジョン、バリューはどれも似たようなものでなぜ上位概念に来るかわかりづらいですよね。さらに抽象性といってもすべて当然目に見えないものですからそこらへんの理解もまたわかりづらい。




言葉の原義に立ち返って考えるとわかりやすくなるかな、と思います。




バリュー(value)の語源はラテン語valereで「力がある」ことを指します。人や組織が具体的に力や強みをもっている状態をさします。だから企業のバリューというと、その企業が今、持っている強み、価値観となります。バリューを分析しようとするとわかりますが、当然今現在の企業の具体的な活動から価値観や強みを抽出するわけです。




ビジョンはどうでしょう。visionの語源はラテン語videreで、「私が見る」ということ。つまり視覚から物事を類推して判断することです。その原義が発展して「将来を見通す力」の意味が与えられ、そこから企業理念モデルにおいては「将来のその企業の展望」という意味に使われています。映像として目に見えるイメージが企業のビジョンですね。具体的活動から抽出したバリューをもとに、その企業がどういう方向を向いて活動していくか、指針を指し示すことがビジョンの役割です。そしてビジョンをもとにKPIやKGIが設定され、各々の所属する従業員が具体的な目標をイメージするのに役立つわけです。




ミッション(mission)はラテン語mittereが語源で、意味は「送る」ということ。これはキリスト教の基本的な教えがわからないと「送る」ことが「使命」となる意味がわからないですね。ユダヤ、キリスト教では神(YHWH)はこの世に預言者を送る、という教えがあります。なぜ神からこの世に預言者は送り込まれたのか。預言者はそれぞれ神から与えられた使命を果たすために来た、というロジックですね。これが転じて神から与えられた使命、というのがmissionとなったのです。だから社会的にどういうあり方がよいかを考え、その企業の使命、存在意義を規定したものがミッションなんです。 




原義からいうと、バリューは具体的活動から見つけた強み(具体的な今の姿)、ビジョンはどういう方向を向いて行動するかを映像的にイメージしたもの(将来のものでバリューより抽象度は上がっている。でも視覚情報として言語化されず具体性もまだ残る)、ミッションはその企業が社会的にこのために存在していて活動する、という言葉をその企業のトップや構成員が納得できる言葉でまとめたもの(ここでは言葉だけで納得できるようにしているので、企業がどういう行動をするかの具体性はほとんどない)、といえるでしょう。




これを突き詰めて考えると、ミッションは具体性があまりないがゆえに、他社と同じミッションは論理的にはありえます。たとえば「社会全体の組織や個人が社会を本当により良くするために行動するのを支援する」というミッションはどの企業でも導く可能性があります。なぜそうなるかというと、ミッションは抽象性が高いほど具体性が捨象されていくので、必然的にみんなが理解でき、共感できる言葉にならざるをえない部分があるからです。




ところがビジョンやバリューは具体性を伴いますから、その企業の今の在り方を無視しては絶対に決められません。例えば「当企業にかかわる人に私たちが提供するもので元気になってもらう」というミッションを掲げている企業があったとして、その企業が牛乳を提供する場合と、ソフトウェアを提供する場合とでは、同じビジョン、バリューになることは絶対にありません。牛乳だけを提供している会社があるとしたら、今のバリューは「世界中で一番おいしい牛乳を届ける」かもしれません。その会社はミッションとして、「原料だけじゃなくて加工物、たとえば世界一よいチーズやヨーグルトを開発して、工場を自社でつくって、その流通もしっかり行うことで、よい多くの人たちに幸せを提供する」という目標となる映像をたてられるかもしれませんね。




そう考えると、ミッション、ビジョン、バリューという順番で抽象度が変わってくるのがわかってきませんか?




ちなみに西洋では上位に抽象度が高いものをもってくるのはなぜか、という話は文化の考察の話なのでまた別の機会があれば話します!

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