人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

『慈雲尊者の仏法』第5回 真実への道―生と死 小金丸泰仙|書評

 
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どうもこんばんは、高橋聡です。今回は『慈雲尊者の仏法』第5回「真実への道―生と死」についてのマクロダイジェストを紹介したいと思います。

その前に、前回までのシリーズ記事を載せておきましょう。

それでは早速今回の内容に入りましょう。

第5回の主要な問いと答え

この第5回で主に問われているところは、次の点だと感じます。”死を迎えることと生の真実や本来の自己を知ることはどうつながるか”という問いです。ここでいったん先に答えを紹介しておきます。”死が人間の意識にのぼり、死期が近くなることが、今の生を生き抜くことや、本来の自己の探求をすることに大いなる助けとなる”という回答がここで与えられています。

死と無常観

仏教では、無常観を強く保つことは修行に不可欠です。その無常観には二つの効用があり、ひとつに真実を会得する薬としての効用、ふたつに慈しみの心を学ぶとしての効用があります。無常観とは空観のことであり、空観とは正見とも言い換えることができます。十善戒のひとつ、不邪見戒の不邪見とは正見のことであり、不邪見戒を守ることとは即ち無常観を守ることと同義です。そして不邪見戒を保つことはすべての戒を成就する基礎となります。
正見=不邪見とは正しい物の見方、考え方といった意味です。仏教において正と邪の分け目は自然界の理に適うか適わないか、という点で判定することができます。ここで正法とは、ただ仏の行われた通りに行い、仏の思惟されたとおりに思惟することだと言われます。
こうした正しい考え方を身につけて、最後に死を迎えるとして、”この世のすべてをすててしまって死ぬときに残るおまえは何者か”と問われたときに答えられるものこそ真実の自己だということができます。無常観は死を見極めることの土台として機能しているため、仏教において死と無常観は切っても切り離すことができないものなのです。

生と死の対比

無常観を身につけて死を見つめるとき、真実の自己が見えるようになる、といいました。そして死を見つめることで自己をどこにおくかがわかるようになってはじめて、真実の人生を生き抜くことができるようになります。なぜでしょうか。
おそらく死を直視して真実の自己を見つめたとき、本当に自分に真実の自己といって誇れるものなどほとんどない、あるいは何もないことに気づく人が多数派です。だからこそ無常観を見つめて死を見つめることができるようになった人は、真実の自己とは何かを考えて生きていけるようになるのです。人生を真剣に生きることができます。生を生き抜くという表現もできるでしょう。本来の自己とは何かを求めて生きるため、生半可な気持ちで生きてはいません。だからこそ、本当の人生を生きる道が死を見つめることによって訪れるのです。

生死一如

また逆もしかりです。生をまっとうすることで、死の本質が浮かび上がるともいえます。全力で自分の人生を生きる、これを続けていければ、やがて自分の死までに何ができ、何を残せるかがわかるようになるはずです。このような境地を生死一如と呼ぶことができます。

迷いの生の源流

私たちは迷いの生を生きています。悟りきった人でさえそれは変わりません。迷いと悟りの世界は同一のもので、ただ観点の違いからそう感じることができるかできないかに過ぎないからです。この迷いの生の突き詰めて真剣に生きるとき、迷いの生の源流に到達します。そうすることで死の本質を浮かび上がらせることができます。迷いの生とは因果に縛られた世界です。そこに自由はありません。空観を身につけることで、縁起の道理をわきまえて生き方の指針が定まり、これが悟りの世界へと転化します。自由の体感できる世界がそこにあります。
ここで大事なのが、因果が定まっている縁起の世界だからこそ、自由はないわけですが、それに気づくことで自由ができる余地ができるわけです。本当にこの世が自由なままですむのなら、おそらく人は自由という概念も浮かび上がることがないし、自由の素晴らしさに気づくことすらないのです。

主題再び

死と生の関係をこのように整理しなおしたとき、死を直視することで真実の自己を見つめ直し、今の生を生き抜くことにつながります。

以上、生と死の関係について今日は考えました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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