精読『近代文化における貨幣』22~25 強い個人主義
22・23 貨幣は自由と束縛との新しい均衡を生み出す。現物経済においては、特定の個人との根強い関係を持っていたが、貨幣経済においてその関係は失われ、独立している。
24 そのような独立した関係は、強い個人主義を生み出す。《人間関係を疎遠にし、すべての人を自己省察に導くのは、他社からの孤立ではなく、あくまで他者への関係なのだ》。
25 貨幣は、《人間の客観的な経済行為とその個人的な色彩とをより純粋な形で分離することを可能にした》。そして、自我は自我の深いところへ潜りこんでいく。
貨幣経済の発展から生まれた現代の資本主義も、ジンメルが主張するように主客をより分離していくのでしょう。。その結果、客体はより客体的に、主体はより主体的になります。つまり、客観的な条件は客観的に基礎付けられる一方で、自分という自我は自分の心の深いところへ自分のありかを見出そうとするようになるのです。こうして客観性の確立とともに、強い個人主義が生まれます。
ただし、それはあくまでも他者からの孤立ではなく、他者との関係において生じる、とジンメルは言います。グローバリズムが進展する中で、今の私たちは確実に世界中の人々に依存するようになっています。ですが、それは中世的な共同体の中で行われた密接な依存関係とは違い、現代の依存関係に、そしてそれにかかわる人々に関して、匿名的で無関心的にならざるを得ません。どんなに世界的な依存関係を強調したところで、たとえば輸入したものを作った人の顔や名前を知ることは出来ません。ジンメルの時代より進んで、そのような関係が、より強い個人主義を生み出すのです。なぜならそのような他者との関係では他者に自己を見出すことが不可能だからです。このことは他者の徹底的な客観化とでも言えるでしょうか。
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