人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

やり直しの高校倫理 最低限これだけは押さえておけ!近現代哲学編|高校倫理

 
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どうもこんばんは、高橋聡です。少し前にnoteに書いた記事のリライト記事となるのですが、体裁をまとめてより読みやすくしました。チャット仲間のお子さんが高校倫理が覚えられない、と嘆いているのを聞いて、少し整理して流れで覚えるといいよ、記事にして書こうと言ったのがそもそものきっかけでした。万人に覚えやすい覚え方というわけでは決してありませんが、ぼくなりの理解をここに書き出すことで、学習者がほかの人が哲学者をどのように把握しているかを知ることで案外、学習の助けになるんじゃないかな、と思っております。

社会科目はストーリーで理解せよ

倫理にしろ、歴史にしろ、政治経済にしろ、社会科の科目において大事なことはストーリーとして登場人物や用語を整理することだとぼくは思っております。ぼくは社会科に関してはほぼ独学でそのストーリーを組み立ててきたわけですが、人のストーリーを聞くと面白いポイントはそれぞれ違うはずです。ただ人のストーリーを聞いてでも、流れに緩急があり、事実を整理して覚えるだけよりも必ず覚えやすいんですよね。

だから今回取りあげる倫理もストーリーとして理解して覚えられるように意図してつくられています。

近現代哲学の範囲と学習のポイント

最初にまず触れておく必要があることがあります。それは近現代哲学の範囲です。一般的にいえば、日本の哲学史、思想史の区分でいうと近現代哲学とは、デカルトとベーコン以降の哲学や思想を指すといってよいでしょう。

高校倫理の範囲では、まず抑えるべき中心人物とその仲間というべき人物がいます。中心になる人物を語りながら、傍らにいる仲間はその中心人物との違いなどを意識しておさえていくとよいと思います。なお、ここでは登場人物となる哲学者や思想家の生涯や思想を語りすぎることはしません。ただ、登場人物の人となりなどがわかれば思想も覚えやすくなることがあるので、そういったことは触れることもあります。それでは、流れを意識して哲学者の思想を紹介してまいりましょう。気に入った用語や人物についていえば、山川出版社の『倫理用語集』を必ず手に入れてそれで調べましょう。この用語集がないと倫理を得点源にするのは難しいかもしれません。それでは本編に入ってまいりましょう。

代表的な思想とその思想の代表的哲学者

倫理はストーリーである、私は断言します。しかしながら、哲学者といえど、当然一筋縄とはいきません。かなり多様な考え方の人がいて、様々な表現をしてぼくらを困らせます。でもそういった表現の中に実は大事な問題とその問いをめぐる考察が隠されているんですね。

いろんな哲学者を比べていくと、共通点と相違点をあぶりだすことができます。共通点が多い人物の前後関係をまずはさらっと頭の中にいれてみてください。今全部覚えなくても大丈夫ですが、どの人物がどの人物の近くにいるのか、という頭の中での哲学者マッピングは意外と大事なんですね。それでは代表的な思想家グループをここでは見て行きましょう。太字の人物がその思想の代表者だと思ってくださいね。

①大陸合理論

デカルト→ライプニッツ/スピノザ

②イギリス経験論

ベーコン→ロック→バークリー→ヒューム

③モラリスト

モンテーニュ→パスカル

④批判哲学

イマヌエル・カント

⑤ドイツ観念論

フィヒテ→シェリング→ヘーゲル

⑥功利主義

アダム・スミス→ベンサム→J・S・ミル

⑦実存主義

キルケゴール→ニーチェ→ヤスパース/ハイデガー→サルトル

⑧社会主義

サン=シモン→マルクス

⑨プラグマティズム

パース→ジェームズ→デューイ

⑩現象学

フッサール

⑩フランクフルト学派(西欧マルクス主義)

アドルノ/ホルクハイマー→ハーバーマス

⑪構造主義

ソシュール→ヤコブソン→レヴィ=ストロース

⑫その他の思想

a.ウェーバー(理解社会学)

b.ウィトゲンシュタイン(言語哲学)

c.フーコー(ポスト構造主義)

d.デリダ(ポスト構造主義)

e.クーン(科学史)

f.レヴィナス(現象学)

g.ハンナ=アーレント(政治哲学)

h.ロールズ(正義論/現代の社会契約論)

以上ですね。計40人います。嫌になりますよね、でも人物にイメージがつくようになればわかるようになります。それでは①の大陸合理論から見ていきましょう。

大陸合理論

デカルト⇒ライプニッツ/スピノザ

倫理でもこの大陸合理論は実は倫理で一番しんどいところだといえるでしょう。なぜか、というとデカルトだけですごい用語がいっぱい出てきて、その用語に対する解説があって、その歴史的意義というものも当然出てくるわけです。だからうんざりするものがいっぱいあって初学者泣かせの分野です。ライプニッツやスピノザも当時を代表する思想家であって、かなり大事な人物ですので、3人とはいえボリュームはかなり多い方です。でも大丈夫、まずは大事なところだけ押さえましょう。

それではまず近代哲学のはじまりに位置する人物、デカルトからみていきましょう。

デカルト

デカルトフランスの思想家です。デカルトが生きた時代、流行っていた思想が懐疑論です。デカルトはその懐疑論を中途半端な思想だと考えたのです。そしてデカルトはもっと徹底的に懐疑論を進めたときにどうなるか、ということを考えました。思考の枠組みだけ懐疑論を採用したのです。これをデカルトの方法的懐疑と呼びます。そして神や世界の存在を疑っていったのですが、わたしだけは絶対にいつ考えても残ることがわかりました。これがかの有名な

われ思う、ゆえにわれあり(コギトエルゴスム)

です。デカルトは学問には4つの性質が必要だとかいろいろ言っていますが、そういうのはこの懐疑を耐え抜いた自我を近代思想の中心に据えることで出てきたものなので、まずこの方法的懐疑と自我が大事だということをおさえておいてくださいね。

デカルトは人文学を重視する学園を出たエリートでしたが、人文学をあまり重視せず、数学や物理学に傾倒しました。しかし書物を読むだけの生活に満足し、世間という書物を読むために旅に出ました。そして旅に出て書き上げたのが『方法序説』『省察』などの本です。有名になったデカルトは各地から人気哲学者として招聘されることになりますが、大体のものは断っています。しかし、デカルトは晩年、新教国スウェーデン、ヴァーサ朝の女王クリスティーナの招聘に応じて、はるか北の都、ストックホルムでクリスティーナの哲学教師を務めたのです。ところが11月をすぎまして、ストックホルムの冬はめちゃくちゃ寒かったみたいなんですね。そうしてデカルトは自身が体験したことのない寒さにやられて、肺炎を患って亡くなります。しかしながら、新教国の救世主ともいうべきグスタフ=アドルフの娘でもあったクリスティーナ女王を、プロテスタントからカトリックに改宗させるという説得をなんとデカルトは成功させたようなのです。当時の常識では考えられない改宗をデカルトが行ったというのは、興味深いお話です。

ライプニッツ

ライプニッツは現代でいうとドイツの哲学者で、二進数を発見したり、微積分を発見したり、はたまた中国哲学に精通していたりととにかく博学な人でした。その代表的な哲学が『モナドロジー(単子論)』です。モナドとは、単子と訳されることもあるそれ以上に分割することのできない要素のことをいいます。ライプニッツによると、モナドの大きさはさまざまなものがあります。しかしそのモナドの窓は閉じていてお互いのモナドに交流はない、というのです。つまりひとつひとつのモナドが閉じた世界を形成している、と考えてよいのでしょう。あとででてくるスピノザやロック、ニュートンなどとも会合をもったり、論争を行ったりした当時の学的世界の巨人としてライプニッツは活動しておりました。

スピノザ

スピノザはオランダの哲学者です。スピノザは汎神論による一元論的世界観を説きました。死後公刊された彼の主著『エティカ』は友人が発刊したといわれています。スピノザはユダヤ人として生まれましたが、ユダヤ人コミュニティから追放され、さらに危険思想家としてキリスト教教会からも目をつけられていました。無神論者という扱いを受けていたようです。スピノザは時計職人として生計を立てる珍しい哲学者でした。

以上が大陸合理論の3人のビッグネーム哲学者でした。大陸合理論の特徴といえば、生得観念演繹法合理主義などです。それぞれわからない単語は調べておいてくださいね。

イギリス経験論

ベーコン⇒ロック⇒バークリー⇒ヒューム

イギリス経験論も大陸合理論と並んで重要な思想です。4人が挙がっていますけど、すべてがイギリスの哲学者となります。分量も重たいですが、合理論より直感的にわかりやすいものが多いです。まずベーコンから押さえていきましょうね。

ベーコン

ベーコンは主著『ノヴム=オルガヌム』(新機関)にて4つのイドラや科学的な実験を重視する帰納法を説きました。デカルトのコギトエルゴスムと並んで、ベーコンの有名な言葉があります。

知は力なり

という言葉がそうです。この言葉は、正しい知識を得ることが成長につながって、実際に力をもつことになることを指す言葉です。

ベーコンは実は政治家として大物だったようです。今でいう最高裁判所の裁判官みたいなこともやっていました。でも結局権力闘争に巻き込まれ、不遇な晩年を送ったといわれております。

ロック

ロックもイングランド出身の哲学者です。ロックの主著は『統治二論』『寛容書簡』など色々あります。社会契約論でも触れられることのある大哲学者ですね。人間はタブラ=ラサ(白紙)の状態で生まれ、そこに人生という記録を書き込んでいくんだ、と考えました。さらに君主への抵抗権革命権を主張して、間接民主主義である議会制民主主義を重視したのがロックです。自身は実験が大好きで、腐った肉はどうなるか、ということに疑問を持ったらしく、その通り実験して食当たりでなくなりました。

バークリー

バークリーはアイルランド出身の哲学者です。「存在することは知覚することである」と説いて、唯心論的観念論を説きました。バークリーの主著は『人知原理論』です。聖職者だったバークリーは哲学と神学の調停を図ろうとしました。

ヒューム

ヒュームもアイルランド出身の哲学者です。存在だけでなく、自我もまた知覚の束にすぎない、さらに因果関係だってただの前後関係にすぎないと指摘し、懐疑論を説きました。批判哲学者カントに影響を与えたことでも知られます。

ヒュームは実はフランス革命の思想家として有名なルソーと会ったことがある人です。フランスを追われてルソーはイギリスへ逃げてきます。そのときにルソーを出迎えたのがヒュームです。最初は手を取り合って友人関係を結んだといわれています。ところが人間不信で疑心暗鬼の人ルソーはよくしてくれるのには裏があると疑って、それをヒュームの前で公言したりしたので二人の仲は悪くなって最終的に決裂したとのことです。

ぼくはここで不思議なことがあります。人間理性をどこまでも信じて革命を夢想したルソーが実は人間不信の変態だということと、理性がなく知覚があるのみと説き懐疑論を唱えたヒュームが人のいいおっちゃんだったという事実は思想と人柄が一致していない好例かもしれません。ともかく、ルソーとヒュームはカントに多大なる影響をあたえます。こういう話も結構面白いのでぼくは好きです。

さて、イギリス経験論の特徴は、帰納法、生得観念の否定、実験主義、タブラ=ラサなどでしたね。こちらも頻出の語句なので、意味がわからなければ調べておいてくださいね。

モラリスト

モンテーニュ⇒パスカル

モラリストとは道徳家とか道徳主義者という意味です。モラルを重視するフランスの哲学者たちを指します。その特徴は随筆格言警句です。

モンテーニュ

モンテーニュはフランスのモラリストです。モンテーニュといえばその著書『エセー』を思い出してください。モンテーニュは次のような格言を大事にしました。

ク=セ=ジュ(私は何を知るか)

そしてその格言に沿ったモンテーニュ独自の懐疑主義を唱えたのです。そんなモンテーニュが最も重視したのが寛容さという特質です。道徳として寛容を重視しないといけない、と考えたのがモンテーニュです。

パスカル

パスカルはフランスのモラリストです。ヘクトパスカルって聞いたことがありますか。それはパスカルが気圧の実験を行ったことから名前が付けられたのでした。いわば科学者・数学者として活躍したパスカルでしたが、晩年は宗教哲学者として人生を送ります。主著『パンセ』は友人が編纂したものです。『パンセ』の中の有名なことばが次の言葉です。

人間は考える葦である

人間は葦のように弱い存在であるけども、考えることができる存在だ、というような意味ですね。中間者としての人間の偉大さを説きました。

このようにモラリストは独特の哲学を説きました。この思想を直接受け継いだ人物がいます。実存主義のところで解説するニーチェがそうなんです。

批判哲学

イマヌエル・カント

批判哲学といえばカントです。カントドイツの哲学者で、カントといえば批判哲学、批判哲学の別名は超越論哲学と言います。批判哲学の批判って何を対象に行うのでしょうか。実は理性に対して批判を行ったのがカントなんです。主著は三つです。名前だけでもまずは絶対に覚えましょうね。三批判書ともよばれる『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』です。啓蒙思想の完成者であるカントはルソーとヒュームの二人から大きな影響を受けました。ルソーからっは道徳の崇高なことを学んで、ヒュームの哲学に触れて独断論の過ちを悟った、と言います。

カントが批判哲学で企てたことは、理性能力の限界を定めることです。理性には理論理性実践理性の二種類があります。有名な言葉は次の通りです。

汝の意志の格律が常に同時に普遍的立法の原理となるように行為せよ

あなたの意志で従うと自分で決めた規則は、いつも不変的な立法の原理と同じように行為しなさいということです。

カントは本当に語るところが多いですが、まずは上記のようなことを押さえておいて深掘りしていく感じで良いでしょう。

カントは規則正しい生活を送っておりました。だからケーニヒスベルクの町の人たちはカントが散歩する時間が正確すぎたので、散歩した時間をみて時計が狂っていたら時計を合わせたといいます。そのカントが散歩を忘れたときがあって、それがルソーの『エミール』に熱中して読んでいたときだった、という逸話も残っています。

ドイツ観念論

フィヒテ⇒シェリング⇒ヘーゲル

フィヒテ

フィヒテはドイツの哲学者です。ドイツ観念論の最初の哲学者として登場しますが、もともとはカント哲学の批判から出発した人物でした。自我こそが主客の統一的原理だと考えたのです。『ドイツ国民に告ぐ』という演説が有名です。

シェリング

シェリングはドイツの哲学者です。ドイツ観念論第二の哲学者として知られています。シェリング哲学の前期が同一哲学、後期が積極哲学と呼ばれる立場です。シェリングはヘーゲルと喧嘩別れしてどこの大学でも教えることのなくなるくらい人気が低迷しましたが、晩年には積極哲学者としてキルケゴールやマルクスの出席した講義を主催するなど、名声を回復していきます。

ヘーゲル

ヘーゲルはドイツの哲学者です。ドイツ観念論の完成者として知られています。ヘーゲル哲学は近代哲学と現代哲学の分水嶺にいるといわれる哲学者です。弁証法といって、らせん状に事実や概念を発展していく法則を見つけたのが最大の特徴です。絶対精神人倫についてもおさえておいてくださいね。主著は『精神現象学』『法の哲学』です。そのヘーゲル哲学は実存哲学的要素と言語哲学的要素の二つを巧みに取りこんだ名作として知られています。

なおヘーゲルは君主制国家の哲学者として知られていましたが、実際は民主制のほうが優れていたと現代では考えられており、遺稿の整理など進んできてまた違う側面が最近わかってまいりました。

古典派経済学・功利主義

アダム・スミス⇒ベンサム⇒ミル

アダム・スミス

アダム・スミススコットランドの哲学者にして、古典派経済学の祖です。アダム・スミスの主著は『道徳感情論』『諸国民の富』です。自由放任主義労働の重要性を説きました。市場原理としての神の見えざる手という概念も有名ですね。スミスはちょうど産業革命が進展中のイギリス社会を見て生活をしていたのです。だからこそ経済が発展していって経済に注目がいったんです。この労働が重要であるという考え方はヘーゲルやマルクスに大きな影響を与えた、と言われております。

ベンサム

ベンサムはイギリスの哲学者で、功利主義の祖です。最大多数の最大幸福のスローガンで知られる功利主義を確立し、量的功利主義の立場で功利主義を広めました。快楽は計算できる快楽計算の考え方を提唱し、その計算された快楽を最大値になるように各人が行動し、国家が行動すればよい、という考え方が簡単にいえばベンサムの功利主義なんです。

ミル

ミルはイギリスの哲学者で、父親がベンサムの信奉者でした。最もIQが高い哲学者であるといわれ、インドの歴史に関する本を幼少期に執筆したといいます。そうしてエリートの道を進みましたが、現代でいううつ病にかかって退行期に入り、少したってまた復活して質的功利主義を説きました。そんなミルの主著は『自由論』『功利主義』です。

功利主義は資本主義と相性のいい考え方で、現代の政府の政治施策にも影響を与えています。

実存主義

キルケゴール⇒ニーチェ⇒ヤスパース/ハイデガー⇒サルトル

実存主義とは現実存在としての自分をまず大事にして生きよう、ということです。社会が何かに与えた価値とか意味とか背後世界に振り回されるな、自分の人生の主人公を主体的に生きよ、ということが説かれます。

キルケゴール

キルケゴールデンマークの哲学者です。ヘーゲル哲学に対抗して、質的弁証法を唱えて、人間は生きるにあたって、客観的に真理だと思われるものよりも主観的に真理だと思う主体的真理こそ大事だ、と唱えました。この主張はまさしくソクラテスの主張と軌を一にする部分があるので、後年キルケゴールはコペンハーゲンのソクラテスと呼ばれるようになりました。有神論的実存主義といって、神を否定することのない実存主義を唱えました、主体的に生きよ、というのがキルケゴールの一番のメッセージとなります。キルケゴールの主著は『あれかこれか』『不安の概念』『死に至る病』です。

「結婚したまえ、後悔するだろう。結婚しないでいたまえ、後悔するだろう」といったキルケゴールの人生はコペンハーゲンで暮らした小哲学者とは思えないほど、波乱万丈の面白いエピソードに満ちています。親との不仲、生涯の思い人レギーネとの婚約破棄事件、新聞コルサール事件などスキャンダル性の高いお話がたくさんあるので、興味のある方はぜひ調べてみてください。

ニーチェ

ニーチェドイツの哲学者です。ニーチェの有名なことばを以下に引用しましょう。

神は死んだ!

こんな明快なメッセージはいまだかつてあったでしょうか。確かに無神論者と呼ばれる人はたくさん哲学者の中にもいました。しかしここまでストレートにキリスト教の神の死を宣言し、そして神の死を望む人間は哲学者としてはニーチェが初めてでした。

ニーチェは青年期、ショーペンハウアーの哲学の影響を大いに受けて、音楽家リヒャルト・ワーグナーと親交を結びます。その時期に出された著作が処女作『悲劇の誕生』です。簡単にこの本の概要を述べますと、明るく朗らかな生の象徴であるアポロン的なものと、暗くて悪や悲しみ、カオスの根源でもあるディオニュソス的なものとが古代ギリシャの悲劇では一体となって表され、古代ギリシャ人はどちらの感覚も鋭敏に感じて、魂の浄化を行ったとニーチェは言います。そしてこの古代ギリシャの悲劇が再生される場こそワーグナーの音楽劇である、というお話が後半に出てきます。この著作はニーチェが古典文献学者として発表した本ですから、その当時の研究潮流からおおいに外れたこの本のせいでニーチェは学会から追われます。

不遇な人生を送ったニーチェでしたが、その思想的開花は主著『ツァラトゥストラ』でしょう。中二病の聖典ともいえる本書で、彼ニーチェは超人、つまり人を超えた存在として生きよ、というメッセージを主張しました。人がサルをあざ笑うように、超人は人をあざ笑う、というようなことが書かれているなかなか面白い本です。ぼくは万人に対して、この本を読むことを強くお勧めしします。このツァラトゥストラの思想はのちに様々な思想家、哲学者に大きな影響をあたえました。

ヤスパース

ヤスパースは20世紀ドイツの哲学者です。ハイデガーと同時代人でして、ヤスパースが理想とする哲人は社会学者であるマックス・ヴェーバーである、という一風変わった哲学者です。限界状況、有限性超越者、実存的交わりという用語で知られています。

ハイデガー

ハイデガーは20世紀ドイツの哲学者です。ハイデガーの哲学はフッサールの現象学を拠り所としながら、キルケゴールの思想とニーチェの思想を合体させていいところを抽出した哲学といってもいいすぎじゃないでしょう。ハイデガーの主著『存在と時間』は本来的実存を確立するにはどのような生き方をすればいいかが書かれている名著です。日常世界に埋没して、誰でもない存在であるダスマン(世人)から、死への存在としての自己を徹底的に見つめて目覚め、本来的なダーザイン(現存在)になると、倫理的な目覚めがあるんだ、とハイデガーはいうのです。死への存在を気づくキー概念が不安でして、それはまさしくキルケゴールが源泉となっているのです。

サルトル

サルトルは20世紀フランスの哲学者です。無神論的実存主義者として知られています。ノーベル文学賞が贈られて辞退するという反骨の精神を持った哲学者です。そんなサルトルの有名な言葉は次の言葉なので引用しましょう。

実存は本質に先立つ

普通動物や植物は本質、つまり生きる意味というものは、繁殖のために存在しているのであって、本質が先立ちます。つまり本質が実存に先立っているわけです。ところが人間においては、本質、生きる意味というものは人が生きていくうちに身に着けて結論を出すものであって、逆では決してないのです。赤ちゃんのときに意味をあたえられないで社会に放り出され、成長して自分なりの意味をつかむしかできないわけです。実存は本質に先立つとはそのような事態をさします。

またそれと関連してサルトルの次の言葉も有名でしょう。

人間は自由の刑に処せられている

人間は自由を行使して、何らかの行動をとらないといけない存在だ、ということですね。

そんなサルトルは社会参加、アンガージュマンが大事だと説きました。サルトルは結局マルクス主義と実存主義の共存を図ったのです。それは一定数理解を示す人はいましたが、結果的に構造主義者レヴィ=ストロースとの論争に負けたこともあり、失敗に帰しました。

社会主義

サン=シモン⇒マルクス

サン=シモン

サン=シモンフランスの産業社会主義者です。産業社会主義はマルクスによって空想的社会主義の一種だと烙印を押されましたが、フランス社会学の系譜の最初に位置付けるべき人物でもあり、学問的社会主義です。サン=シモンはルソーに影響をうけ、アメリカ独立戦争に参加し、近代社会における産業の重要性を説きました。宗教社会→封建社会→産業社会へと社会は発展するとサン=シモンは考えました。産業者が実権を握り、国政を動かす社会が将来現れるだろうと考えたのが産業社会主義です。サン=シモンの主著は『産業者の教理問答』で、実証主義を標榜した社会学を提唱したコントはサン=シモンの弟子です。

マルクス

マルクスはそれまでの社会主義を空想的社会主義と評して、自身が科学的社会主義を創設した、と主張しました。それまでの社会主義とマルクスの社会主義との最大の違いは、アダム=スミスから始まる古典派国民経済学の批判を行い、マルクスの社会主義だけが経済学を持っているという点です。マルクス自身はドイツで生まれ、ヘーゲル哲学の批判から出発した哲学者でして、社会主義者であると同時に、経済思想家でもあります。労働生産手段生産関係といったキーワードで産業革命後の社会を分析して、労働者(プロレタリア)が資本家(ブルジョワジー)によって搾取されている現状を告発しました。そして搾取されてひどい状態に置かれていた労働者の環境にも目を向けて、労働者よ立ち上がれ、資本家の横暴を許すな、というメッセージを一貫して発し続けたのです。

マルクスの哲学的土台となっているのはヘーゲルの弁証法とフォイエルバッハの唯物論です。マルクスの主著は『経済学哲学草稿』『共産党宣言』『資本論』です。20世紀になってマルクスの思想を信奉したマルクス主義がおおいに発展します。

プラグマティズム

パース⇒ジェームズ⇒デューイ

プラグマティズムアメリカ合衆国で発達した哲学を指します。プラグマティズムは、フロンティア精神、つまり開拓精神を背後に宿して、資本主義を確立して工業生産力を増大しつつあった南北戦争後のアメリカ合衆国の風土と文化のもとに発展した哲学です。特徴は日常生活を大事に考えた実践論的な哲学です。思考の過程を重視する哲学がヨーロッパの哲学だとすれば、思考の結果を重視する哲学がアメリカのプラグマティズムであるといえます、ぼくは勝手に経験論者ヒュームの立場と近い哲学だな、と考えています。プラグマのもともとの意味はギリシャ語で「行為」「行動」です。すべての観念の源泉は行動にあるという思想をパースが唱えたことで始まった思想運動なんです。ではパースの哲学について見ていきましょう。

パース

パースはアメリカのプラグマティストです。パースは主著というものは残さず、科学的実験の方法を実世界に適用させようとしました。パースは言語学的にとても興味深い理論である記号論を提唱していますが、これは倫理ではあまり取り上げられません。

ジェームズ

ジェームズは重要なアメリカのプラグマティストです。ジェームズはプラグマティズムを基礎とした心理学を提唱しました。そのジェームズの基本思想である真理の有用性は極めて重要な概念です。真理が真理たるゆえんは、結局真理が正しいかどうかよりも、真理がどれだけ人間の実生活に役立っているかにかかっているので、真理とは有用性で図られるべきであると説いたのです。これは従来のヨーロッパの哲学から完全に抜け落ちていた考え方です。

デューイ

デューイもアメリカのプラグマティストで重要人物です。デューイはプラグマティズムを基礎とした社会学や教育学を提唱しました。デューイの根本思想は道具主義です。デューイは、ジェームズの真理の有用性という概念を発展させ、すべての学問や知識は人間が行動する際に役立つ道具である、と考えたのです。そのように考えたデューイですが、創造的知性を特に重視しました。デューイによると創造性とは、問題解決能力のことを指します。デューイの主著は『民主主義と教育』です。学校教育の根本を変える思想を提供した人物として知られています。

現象学

フッサール

フッサールドイツの現象学者で、実存主義のところで出てきたハイデガーの師匠に当たる人物です。「事象そのものへ」をモットーに、事実が自分の前にあるとき、その事実について判断することをいったん留保するエポケーという態度をとることで、日常的な自然的態度から自我の純粋な意識の領域である超越論的領域を取り出す現象学的還元を説きました。フッサールから始まる現象学ムーブメントは、ハイデガーに引き継がれ、そのあとサルトルやレヴィナス、メルロ=ポンティ、ガダマーなどに引き継がれます。

フッサールの主著は『イデーン』『ヨーロッパの諸学問の危機と超越論的現象学』です。

フランクフルト学派

アドルノ/ホルクハイマー⇒ハーバーマス

アドルノ/ホルクハイマー

アドルノホルクハイマーはともにドイツの哲学者で、フランクフルト学派を主導した人物です。二人の共著『啓蒙の弁証法』はファシズム以降の理性主義の問題点を批判する批判理論が展開されている書物です。批判理論とは、道具的理性によってファシズムや核兵器の開発が起こったというヨーロッパの近代思想批判です。ちなみに初期のフランクフルト学派はほぼ全員がマルクス主義者でした。フランクフルトで起こった運動なのでフランクフルト学派と呼びます。

ハーバーマス

ハーバーマスは現在も存命中のドイツの哲学者です。フランクフルト学派の第二世代に当たる人物ですね。合意の形成を目的としたコミュニケーション的理性が重要だと説きました。つまり民主主義の全否定ではなくて、良い面を引き継いで発展させようといった人物です。

構造主義

ソシュール⇒レヴィ=ストロース

ソシュール

ソシュールはスイスの言語学者です。フランス語圏のスイス、ジュネーブに暮らしていました。構造主義という考え方を発明した人物でして、構造言語学を唱えました。弟子たちが死後講義をまとめた著作『一般言語学講義』がソシュールの主著として知られ、この書は思想界に革命を起こしました。ソシュール思想をわかりやすくいうと、言語体系(例えば日本語)があれば、その体系の中にある差異が単語と文章の意味を規定します。この差異を明示的に意識せずに、無意識下で使っている存在が人間なのです。言語体系の中での関係性こそが単語や文章の意味を決めて、辞書的に単語の意味が決まるわけじゃないことをソシュールは主張したのです。言語体系を社会体系と言い換えて、単語や文章の意味を習慣や文化とよべば、そのままレヴィ=ストロースの構造人類学となります。

レヴィ=ストロース

レヴィ=ストロースフランス文化人類学者です。レヴィ=ストロースはロシアフォルマニズムの言語学者ローマン・ヤコブソンからソシュールの構造主義を学び、社会や民族の研究に構造主義を応用しました。構造主義ムーブメントを世界中に広げるきっかけを作った人物です。西洋中心主義から文化相対主義へと大きな思想史上の転換を切った時期と呼応して構造主義は世界に広がったのです。あと文明人には文明の思考があるかもしれないが、野蛮と言われる民族にも野生の思考と呼ばれる規則性、論理があると説きました。主著は『悲しき熱帯』『野生の思考』などです。

その他の思想

a.ウェーバー(理解社会学)

マックス・ウェーバードイツの社会学者です。ウェーバーはドイツ社会学を確立した人物です。官僚制合理化といったキーワードは調べておきましょう。主著は『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』です。ウェーバーの研究の主題は、ずばり近代とは何か、なぜ近代の制度が出来上がり、どう人が動いているのか、というところです。

b.ウィトゲンシュタイン(言語哲学)

オーストリア生まれでイギリスで活躍した哲学者がウィトゲンシュタインです。幼少期はヒトラーと同じ学校にいました。言葉に着目した言語哲学/分析哲学を発展させた人物です。ウィトゲンシュタインの主著は『論理哲学論考』『哲学探究』です。『論理哲学論考』を締めくくることば「語りえぬものについては、沈黙せねばならない」はあまりにも有名です。ウィトゲンシュタインの後期思想は言語ゲームという概念で説明されます。それぞれ調べてみましょう。

c.フーコー(ポスト構造主義)

20世紀後半の最大の思想家のひとりであるフーコーは、フランスの哲学者。フーコー自身は10年スパンで言うことが結構変わっているのでこういった!というのが難しい哲学者ですが、その思想的インパクトはあまりに大きいです。よって彼の思想を整理するには主著ごとに何を言っているかに着目したほうがいいです。あえて彼の思想のテーマは何かと問われれば、次のように答えることができると思います。人間を拘束しようとするシステム社会への反発と、人間の真の自由の解放。主著『狂気の歴史』『言葉と物』『監獄の誕生』『性の歴史』

d.デリダ(ポスト構造主義)

20世紀後半に活躍したフランスの哲学者、デリダはアルジェリアのユダヤ人家庭で生まれました。西洋の哲学を構築している基礎の概念などをすべて解体し、新しい哲学の方法を模索しました。その方法が脱構築という方法です。デリダの主著は『エクリチュールと差異』という著作です。

e.クーン(科学史)

クーンアメリカ科学史家。クーンはパラダイムという言葉の提唱者です。パラダイムとはクーンの使い方では、科学研究者が広く共有する科学的な考え方の時代的な類型です。たとえばルネサンス以前、天動説が西欧社会では信じられてきました。天動説が科学者のパラダイムでした。ティコ=ブラーエやガリレオ=ガリレイの研究によって、天動説で考えた時の誤差は地動説で考えると問題なく説明がつくと気づいたのはガリレイでしたが、これを公刊して世間に知らしめたのがコペルニクスです。コペルニクスが地動説が正しいことを実証してから、天動説から地動説へとパラダイムが変動しました。こうしたパラダイムが動くことをパラダイム=シフトと呼びます。

f.レヴィナス(現象学)

リトアニア出身のフランスの哲学者です。レヴィナスはユダヤ人だったのでドイツで学んでいた際に強制収容所にとらえられ、本人は生き延びましたが、まわりの知人友人はほとんどが亡くなっていました。レヴィナスによると、絶対的な他者として迫ってくると言います。主著『全体性と無限』でレヴィナスは他者の不気味な顔と出会って、自己が倫理的に他者を受け入れるとき、人間は倫理的な主体となることができる、とレヴィナスは説いたのです。

g.ハンナ=アーレント(政治哲学)

ハイデガーの弟子で元恋人だったアーレントは、ドイツの政治哲学者です。ハイデガーがナチス運動に共鳴するのを知り、ドイツを逃れ、アメリカで活動をつづけました。アーレントは主著『全体主義の起源』で全体主義は所属観を持たない大衆が原因になって発生したと分析しました。もう一つに主著『人間の条件』は人間の活動を労働・仕事・活動に分けてそれぞれの意義について語りました。

h.ロールズ(正義論/現代の社会契約論)

アメリカの政治学者・倫理学者であるロールズは有色人種の権利を獲得しようとする公民権運動が行われていた時に活躍しました。公正としての正義という概念を唱えて反響を呼びました。正義の原理は無知のヴェールがかけられた原初状態を想定して考察しないといけないと説きました。平等な自由の原理、公正な機会均等の原理、格差の原理の三つの原理を守ることで正義は成立すると説きます。ロールズは自由よりも不平等が是正される社会を理想としました。ロールズの理論は現代の社会契約論として知られています。

今回の記事のまとめ

ヨーロッパの近現代思想ということで、誰を外して誰を入れるのとても悩んだのが実情です。でもとりあえず書きすぎても覚えられないし、逆に大事な人物を外してしまっては意味がないのでここに出てくる哲人は超重要な人たちばかりです。だから、まずこの人たちがだいたい何をしたかを知り、そこに自分なりの肉をつけていって倫理を得意教科にしてもらえたらうれしいな、と思います。

以上、今回はやり直しの高校倫理 最低限これだけは押さえておけ!近現代哲学編をお届けしました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

高橋聡記す

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