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お金について -資本主義と貨幣についてのつまらぬ一考察

 
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資本主義と貨幣
 資本主義とは何か?それは現代社会に生きる人々がその価値判断や意思決定において貨幣的価値/損益を重視する姿勢そのものだと言えよう。この現代の資本主義を少しばかり触れるに当たって、貨幣の性質というものを考える必要性は自明のものであろう。
 「お金はあればあるほど良い」、或いは「何をするにもお金が必要である」という考え方(A)がある。この捉え方は、ある視点から言うと誠に正しい。すなわち、貨幣社会成立以降、貨幣を持てば持つほど様々な活動―それが営利的なものであれ、そうでないものであれ―の幅が広まるのは否定できないものだ。それ故に金銭を持つ者程社会的価値は高くなるし、金銭を持たなければ、他人を救うという慈善的行為を施すこともできないだけでなく、自分自身が生きていけないのである。
 一方、「お金を持たなくても満足した人生を送ることが出来る」(B)という考え方がある。この捉え方も上記と別の視点から見れば正しいといえる。この考えは次のように換言できよう。「人にとって満足するということは、金の多寡で量れるものではない」と。確かに幾ら金銭を多く保持しておこうと、さらなる金銭の取得にばかり目が向き、自分の保有する資金の増減に一喜一憂するような人生よりは、貧しくとも謂わば(抽象的ではあるが)幸福度の点で楽しい人付き合いや自分なりの楽しみを見出せるほうが余程良いという考えも否定できるものではない。多くの金を持ち、活動の幅が広がろうとてその活動の深さの点で及ばなければ、金を持つ必要がないとも言えようか。
 この一見すると相反する二つの捉え方を考えるにあたって、ドイツの社会学者ゲオルグ・ジンメルの比喩が役立つ。ジンメルは『近代文化における貨幣』('Das Geld in der modernen Cultur',1896)の中で「最終的な目的や享楽へと通ずる数列の一つの項としての、すなわち橋渡しとしての役割、これが貨幣の持つ意味のすべてだ」(北川東子編訳/鈴木直訳『ジンメル・コレクション』ちくま学芸文庫 p279)と指摘する。何も持たずには渡れない川が横たわっており、そこを超えるには橋が必要であるが、この橋こそが貨幣の持つ機能そのものなのだ。
 この比喩を使って、上述した考え方を少し考え直してみよう。Bでは、貨幣を持たないので障害になる川に橋をかけることはできないが、対岸に渡らずともその場所で生活できればそれで満足できるということだ。対してAでは、金銭を持てば持つほど川に橋を架けることができ、それ故に活動範囲も広がり自由になると言えるだろう。こう考えると、貨幣の持つ機能からこれらの捉え方が非常にわかりやすい形になって表れる。
 ここで留意しておかなければならないのは、貨幣を持つことで橋(橋渡し)を人がいくら持つことができても、橋を渡り切るということをしない限り、対岸に達することができないことと、対岸に渡ったとしてもその新境地での生き方を確立せずして幸せをつかむことができないということである。前者はつまり、金を持っていても何か他の価値あるものを買わなければ結局宝の持ち腐れということで、後者は金を使って新たなものを買っても、その買ったものを自分にとって本当に価値あると思うほど使いこなしたり、本やビデオならば読んだり見たりすることをせずして、何も得ると事がないということだ。
 あるいは次のように言えるかも知れない。金の亡者は金を追い求めて自滅することが多いと言われることがあるが、これは対岸が見えない程の大河に橋を架けようとその失敗して対岸に渡れないケースである、と。対岸が見えないということは、結局金を使って何をしようかという目的がないということであり、目的を持たずして金を追い求めるにはリスクが大きいだろう。
 金とは得てして手段である。これは、障害を乗り越えるためのバネとなり、非常に価値が高いものではあるが、やはりそれ以上のものではない。それ故、金の為に金を追求するのは、手段を得るために手段を得ることであり、それは実態を持たないものとなってしまう。上述した橋の比喩でいえば、橋をいくら建ててもそれを渡りきってその先で何をするのかが重要だということを忘れて橋を建てても意味がないということ。当然、大きな目的がありそのために手段としての金を貯めることは必要であろう。が、その大きな目的というものが、他人から金を巻き上げて利益を得るためのものならば、結局一生満足することがない結果に陥ってしまうように思われる。資本主義の問題点はまさにそこにあるまいか、と少し考えてみた。

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