人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

ジャーヴェーズ・ロッサー「なぜ20世紀末に中世を研究するのか?」

 
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『未来のなかの中世』所収
 歴史家とは「驚きを愛することができるものでなければならない」。(中世という)異質性を認めることによって、私たち自身をより理解することができる。加えて、想像力に刺激が加えられる。
 中世は「さまざまな文化圏の間の相互交渉や交易が遥かに多様」であった。ヨーロッパの発見の時代の以前、世界の大部分を覆うコミュニケーションシステムが存在していた。中国の陶器やインドのグジャラートで作られた首飾りは、遥かアフリカまで大量に輸出された。
 「本当のところ、私たちは中世の父祖たちに比べて理性的な暮らしをしているわけではない」と筆者は言う。何が合理的なのかという判断基準を、「中世とは違う権威の規範にしたがって決定している」だけである。
 中世中国の科学技術は、西洋に先んじていた。製紙、印刷、紙幣は中国では10世紀に普及していたが、西洋では14世紀まで知られることはなかった。また「都市化現象」は西洋に独自のものだと思われてきたが、東洋にも類似した現象が存在していた。さらに、「古代ギリシャの継承者が地中海・ヨーロッパ世界の他外に」存在した。たとえばギリシャの思考パターンは仏陀の継承者に受け継がれ、仏教に接した東洋世界にも引き継がれた。加えて、イスラムではギリシャ・ペルシャ・インドの入り混じった知的遺産を利用していた。そしてイスラムの収集した知的遺産を介して、西洋世界にギリシャの思考様式が広まったのである。これらの例は、中世の間に起こった相互交渉の巨大さを示すものである。
 中世は、「先入観を持たずに学ぼうとする者には途轍もない多様性を示」す。よく唱えられるような単一な中世精神など存在しない。ただ、「多様な中世のメンタリティ」があるだけである。中世では書かれた言葉が文盲の徒によって神聖視されたが、イメージ(絵など)も同様に利用された。「イメージの利用は権力の構成にとってまさに不可欠の部分だった」のである。
 筆者はいう。「中世を研究する最も強い理由は、現代の世界において年優位に立っていることである」と。経済活動や文化活動においては、地球上のあらゆる場所で年が支配的な役割を果たしている。中世の都市は主に「局地的な、ないしは地域的な中心」として発達した。その土地に独自のアイデンティティを強調するいわば「お国自慢」の感情を持っていた。「中世の資料の中に、私たちの祖先が都市環境の中で生きることを選ばざるをえなかった理由や、前向きな都市生活を送るために発明した方法などを探りだすことは有意義だろう」と筆者は主張する。中世社会にも私たちの社会同様に「階級・ジェンダー・宗教・政治権力による裂け目」があったのだ。
 「過去が与えてくれる洞察の中で最高のものは、時代やテーマの特殊性を超えるの」である。そうして歴史学者は互いに連関があることをより自覚するようになる。中世学者は、中世に再創造性を寄与することができると言う点で、「人文主義者」たるべく仕向けられているのだ。

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Comment

  1. 退会したユーザー より:

    中世の時代に人々が古代ギリシャ・ローマを模範にしたように、現代も中世を模範にすべきということですね。そうやって人類は過去から生きる知識を積み重ねていくんだなと感じました。
    過去から変わらない街並みを保存しているヨーロッパに行って、先人たちの記憶を感じてみたい・・・

  2. たかはしさとし より:

    たしかにこの中世研究の盛り上がりは、近代の反省としての中世という点にあらわれているかもしれませんね
    私もヨーロッパ行きたいですけど、言語の問題が^^;

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