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ソクラテス裁判の主訴人の矛盾とソクラテスの一貫した態度|岩波文庫『ソクラテスの弁明 クリトン』久保勉訳 読書ノート2


どうもこんばんは、高橋聡です。前回から『ソクラテスの弁明』の読書ノートをつけております。前回の記事はこちら。

まだ読んでいない方は是非読んでみてくださいね。古代ギリシアの哲学書としても最古の部類に入るものですが、ソクラテスは大事なことを言っております。

メレトスとの質疑応答(11~15)

青年を腐敗させることに対する反論(11~13)

11.新しい弾劾者への反論

新しい弾劾者の1人であるメレトスは青年に対し何も考えていないのに、熱心と関心をもっているふりをして振る舞っている

12.メレトスへの尋問開始

ソクラテスがメレトスに対して聞く

君は青年を善良にすることに重きをおくのか。「その通り」

青年を善良にする者は誰か。「国法」

青年を善良にする人間は誰か。「裁判官諸氏」「聴衆」「参政官」「ソクラテスをのぞく全アテナイ人」

馬の場合、本当にだれにでもいい馬を育てる資格があるといえるのか?いえない

結局、青年を善良に導くということについて、メレトスは無関心である

13.矛盾するメレトスの発言

人は自分を害する悪人を欲することはあるか(つまり、青年がソクラテスを欲することはあるか)。「ない」

ソクラテスが青年を腐敗させたのは故意か、そうでないか。「故意」

故意に青年を腐敗させようとするものはいるか。「いない」

ところがメレトスはソクラテスが故意に青年を害していると主張する

これは主張の矛盾である

新しい神霊を信ずることに対する反論(14,15)

14.ソクラテスは無神論者か否か

メレトスは「ソクラテスは無神論者である」という

しかし同時に、「新しい神霊を信じて青年を腐敗させている」と訴状にある

これはおかしい。新しい神霊を信じているのに、無神論者というのは矛盾している

これは「ソクラテスは神を信じていないがゆえに、かつ神を信じているがゆえに、有罪である」と言っているようなものだからである

ここでもメレトスは矛盾したことを主張している

15.メレトスの企て

結局今までのことを考えると、メレトスはソクラテスを陥れるために訴状の内容で訴えたのだろう

ソクラテス裁判の最終弁論(16~22)

死の危険と持ち場(16,17)

16.持ち場

新しい弾劾者、訴状に対する弁明は終了する

ソクラテスや他の人びとを滅ぼすのは、メレトスら告発者ではなく、大衆の敵意であるのがほんとうのところ

そうした大衆によって死の危険に触れる営みであっても、人は自信の持ち場を死をもいとわず固守すべきである

アテナイ人諸君、真実をいえばこうなのである。思うに、人はいかなる位置にあっても、それが自ら最良と信じたものであれ、もしくはそれが指揮官によって指定されたものであれ、そこを危険を冒しても、固守すべきであり、恥辱に較べて、視野その他の事のごときは毫も念頭においてはならないのである。(p35)

17.死の危険とソクラテスの持ち場

ソクラテスは従軍した際も持ち場を死守した。

今、ソクラテスが神からうけたと信じる持ち場、愛知者(フィロソファー)として他人を吟味する持ち場を、死を恐れて放棄することなどできない

持ち場の放棄こそ、神託の拒否であり、賢人を装い、神の不信の罪であって、法廷に引き出されるに値する

今回、仮に放免されることを条件に生きる姿勢(持ち場)の変更を求められるとしても、ソクラテス自身は姿勢(持ち場)を変えることはない

私ソクラテスは諸君よりも神に従う

アテナイ人諸君よ、私は諸君を尊重し、かつ親愛する者であるが、しかし諸君に従うよりも、むしろいっそう多く神に従うであろう。(p37)

※無神論者でないことがこの台詞からもわかる

神からの贈り物ソクラテス(18)

18.神からの贈り物

諸君がソクラテスを死刑に処するなら、諸君はむしろ自分自身を害することになる

死刑、公民権剥奪、追放は大きな禍ではない

正義に反して人を処刑することが問題なのだ

私は私自身のために弁明しているのではなく、諸君が罪を犯さないように弁明している

諸君が神からの贈り物であるソクラテスのような人物を失ってしまうことがないように弁明しているのだ

無報酬で徳の追求を説く行為は、神の贈り物である

けだし私は、悪人が善人を害するということが神的世界秩序と両立するとは信じないからである。(p39)

ダイモニオンの声と政治(19~21)

19.ダイモニオンの声

ソクラテスが政治にかかわらないのは、ダイモニオンの声が現れるから

常に何かを止めるためにダイモニオンの声が聞こえるようになる

実際に自分が政治に関わっていたら私ソクラテスはすでに死んでいただろう

人は正義のために公人ではなく、私人として生きるべきだ

むしろ、本当に正義のために戦わんと欲する者は、もし彼がたとえしばらくの間でも生きていようと思うならば、かならず私人として生活すべきであって、公人として活動すべきではないのである。(p41)

20.政治に関わる危険性を示す2つのエピソード

ひとつはペロポネソス戦争のアルキヌサイの海戦の後に10名の将軍に対する違法な有罪の宣告に、ソクラテス1人が反対したことで、大衆の怒号をうけたエピソード

もうひとつは、三十人政権下でのサラミス人レオンを処刑するために連行しようとするのをソクラテス1人が拒否して家に帰ったエピソード

・では、私の遭遇した話を聴いていただきたい。それは私がいかなる人に対しても、死を恐れるために正義に反して譲歩するような者では決してないことと、しかも譲歩しなければきっとまた身を滅ぼすに至るであろうとうこととを、諸君に理解してもらうためである。(p42)

・私は投獄と死刑とを恐れて、違法決議をした諸君と行動を共にするよりも、むしろ国法と正義の味方となって、あらゆる危険を冒すべきであると信じたのだった。(p42)

・私は、言葉によってではなく、実行によって自ら死は寸毫も顧慮しないが、これと反対に、不正と瀆神の行為を避けることと何より重視する者であることを証左した。(p43)

21.ソクラテスは誰の師でもない

ソクラテスは公人としても私人としても態度を一切変えなかった

とはいえ、公人として政治に携わることが少なかったから長い間、生きることができた

誹謗者がソクラテスの弟子と呼んでいるクリティアスやアルキビアデスに対しても、譲歩は一切していない

ソクラテスは何人に対しても報酬を受け取らず、貧富の差別なく問答を行った

ソクラテスは誰の師でもなく、誰に授業を授けもしたことがない

・ところが私は、ご覧の通り、私の一生を通じて、公人としても私人としても、この態度を変えぬ一人の男である。(p43)

・しかるに私は、未だかつて何人の師にもなりはしなかった。(p43)

・何となれば、私はかつて何人にも、授業を約束したことも授けたこともないのだから。(p44)

22.ソクラテスの仲間たち

ソクラテスの仲間となっている人たちは、賢明とうぬぼれの意識が高い人びとが吟味されるのを楽しむ

しかし私にとって、神の使命としてこれを行う

仮に私が青年を腐敗させていたとしたら、現に青年から壮年となった人やその家族や一族がソクラテスに復讐にきていてもおかしくない

しかし実際にソクラテスには仲間や援助者がたくさんいる

しからば長年月を私の仲間になって暮らすことがある人たちを喜ばせるのはそもそも何故であるか。(中略)すなわち賢明とうぬぼれながら賢明でない人たちが吟味にかけられるところを確認することを彼らはおもしろがるのである(p44)

補足(23,24)

23.法廷戦術の拒否

私ソクラテスが弁明として言いたいことは言い終えた

聴いている大衆の中には、死刑より軽い罪であっても涙を流して嘆願したり、同情をひくために子供や親族を法廷に連れ出す者もいるかもしれないが、私はこのようなことは決してしない

誰にとってもそれは不名誉なことである。

・とにかく私は、私にとっても諸君らにとっても、また国家全体にとっても、私がそんなことをするのは不名誉なことと思うのである。(p47)

・さればアテナイ人諸君、我らはいやしくも多小世に名声を博している者である以上、そんなことをすべきではないし、また諸君らも我らがもしそんなことをしたならば、これを容赦すべきではない。(p47)

24.裁判官の義務

裁判官は国法にしたがって事件を審理しなければならない

メレトスの訴状の通りであるか否かを見極めるということだ

ソクラテス自身は告発者たちよりも堅く神々を信じ、最も良い裁判が行われることを大衆と神々に任せる

・諸君、しかし名誉のことはしばらく置いても、教示と説得とによらずして、裁判官に哀願し、そうして哀願によって赦罪を得るがごときは私には正しくない(p48)

・アテナイ人諸君、私は私の告発者の何人よりも堅く神々を信じている者であり、かつまた、私にも諸君にも最も善いように裁判をすることを、諸君と神々とに委ねる者であるからである。(p48)

裁判の判決

本文には書かれていないが、ここで裁判官たちが「無罪有罪決定」の投票を行う

結果280対220で有罪が決定

これより以下は刑量をめぐる弁論となる

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