社会学について9〜機能主義の系譜2・マートンの社会学
2018/02/21
どうも、哲学エヴァンジェリスト高橋 聡です。今日はマートンの社会学について見ていきたいと思います。
マートンの社会学
ロバート・K・マートンは東欧系ユダヤ移民の子として育ち、ハーバード大学でパーソンズの指導を受けて機能主義を学びました。その後、機能主義を再検討して機能を因果関係の一つとして位置付け、機能が及ぶ範囲を慎重に見極めて、様々な機能の側面を指摘しました。中範囲の理論
マートンはパーソンズとは異なり、社会学では一般理論より個別事例を具体的に説明するほうが大事だと考えました。そこで社会調査によって得られたデータを説明するための作業仮説と一般理論との間をつなぐ中範囲の理論を提唱しました。中範囲とは、検証可能な仮説を作り出すためあらかじめ想定する範囲と捉えたほうがわかりやすいです。それは機能を適度な範囲で定義し直そうとしたマートンの発想からくるものでした。
パーソンズが大きな社会から機能を位置付けたのに対して、マートンは小さな社会から大きな社会へと少しずつ歩みを進めていくやり方をとりました。
中範囲という考え方は、視点を変えるヒントになっている点で重要です。範囲を変えることで機能が変わり、逆機能や潜在機能が見えていきます。
逆機能
マートンは機能にはシステムの目的に合致する機能以外に、システムの目的に反してマイナスに働く逆機能が存在することを指摘しました。たとえばウェーバーがいう官僚制の合理的な順機能に対して、マートンは規則万能、前例主義、責任回避など非合理的な逆機能が存在することを強調しました。
ところで一般的に、どの程度の大きさの社会システムについて順機能なのか、逆機能なのかという問題は残ります。マートンの場合は見える範囲を変えながら逆機能を考える立場に立っているので、最初から順機能と呼ぶことはしません。
たとえば大学はこの社会にとって順機能か逆機能かという問題は簡単に決められません。ある研究領域で大学が果たす役割(機能)が大きいならば、その時点で大学がその研究領域(範囲)で順機能を果たしていると言えます。通常範囲を想定し、機能を抽出し、その上で順機能か逆機能かを決めることが多いのです。
また、機能/逆機能を決める場合、そのシステムを存続させるかさせないかということを検討する必要がああるために、特定の価値観からその判断をする必要があるわけで、研究者の立ち位置や価値観が問われるという難しい問題でもあります。
準拠集団
個人の意見、制度、関心などは、自分自身のものではなく、ある集団の規範に基づいていることが多いのです。その場合、実際にメンバーである所属集団とは別に、自分の意思決定や判断の基準を提供する集団がある場合があります。その場合のそのような社会集団をマートンは準拠集団と呼びました。我々はありのままの世界を見たり聞いたりしているわけではありません。見たいと思っているものを見て、聞きたいと思っているものを聞いているのです。人々は情報を得る際に行為的あるいは同質のコミュニケーション内容に触れようとする傾向があり、これを選択的接触と言いますが、それは自分を関連づけている準拠集団に影響されます。
予言の自己成就
マートンは「もし人が状況を現実であるとすれば、その状況は現実となる」というトマスの公理を発展させて、予言が予言通りに実現することを予言の自己成就、または自己完結と呼びました。たとえばあの銀行が倒産しそうだ、という噂が広まっていたとします。最初は疑心暗鬼だった人々がだんだん不安になって多数の預金が引き出され、その結果実際に技能が倒産したとしましょう。最初の段階ではたんんある噂ですから、主観的な憶測にすぎません。ところが多くの人々が預金を引き出す事態は事実となり、予言が自己成就してしまったのです。
予言の自己成就とは、当事者にとって意図しない結果を招く事態であり、意図した予言を実現することではありません。
マートンは主観的事実が客観的事実になるという範囲の拡大をうまく描き出しました。最初の一つは主観的な不安を抱き、念のために預金を引き出しただけでしたが、その行動は他者から見ると客観的な事実であり、銀行が危ないという証拠に見えるのです。当人がどう思っているかということとは別に、他者にどう理解されるかということが、予言を自己成就させる客観的事実になっていくのです。
アノミー理論
マートンはデュルケムのアノミー理論を別の形で発展させました。デュルケムは社会の絆が弱くなった場合にアノミー現象が生まれると考えましたが、マートンは文化的目標とその達成手段との関係が破綻した状況をアノミー状況としました。マートンは文化的目標を実現するために制度的手段をつかうかどうかで次の5つの行動を提示します。
①同調(目標も手段も受容)
②革新(目標は受容、手段は拒否)
③儀礼主義(目標は拒否、手段は受容)
④逃避主義(目標も手段も拒否)
⑤反抗(別の目標と別の手段)
そして社会がアノミー状態に陥ると「同調」以外の逸脱行動が発生すると言います。