人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

ニーチェ、ハイデガー、ブッダの語る人としてのあり方の比較

 
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哲学エヴァンジェリスト。 東洋哲学や西洋哲学問わず、面白い哲学をあなたにお伝えします。
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どうも、哲学エバンジェリスト高橋 聡です。ぼくは最近よく仏教の考えと西洋哲学には違いはあれど、根底で通暁する部分があると感じます。なぜか。仏教でも、西洋哲学でも、表面的にはダメな人間がいて、その改善策を語っているようには見えます。でも仏教思想であろうと西洋哲学であろうと、根底には人間の可能性への信頼があるように思えてなりません。

今回はそのような人間の可能性を拡大して、ただの人間を超越したあり方を示そうとした三つの人物の哲学について迫ろうと思います。とはいえ、全体を見ていくのはすごく大変ですから、まずはその最も重要な人間の超越したあり方についてみていきます。

ここで取り上げる三つの人物とは、ずばりニーチェとハイデガー、そしてブッダです。彼らは人間の可能性を信じ、必ず人格を向上させることができることを説いた点で共通しています。ではさっそく、ニーチェの超人から見ていきましょう。

超人ーニーチェの示す人としての理想形

超人と『ツァラトゥストラ』

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哲学に少しでも触れたことがある人なら、ニーチェの「超人」概念を知らない人はいないでしょう。この「超人」が語られたニーチェの著作が『ツァラトゥストラはこう言った』(以下、『ツァラトゥストラ』)です。超人とはドイツ語でÜbermensch (ユーバーメンシュ)といい、英語ではsupermanとなります。日本語訳とほ
とんど同じ意味です。

この超人という概念が実に誤解を生みやすい表現ではあります。ナチスが超人概念に影響を受けているとか、超人とは人を超えた神的存在だとか、そういう言説がなされてきた時代もありました。

ところがニーチェの『ツァラトゥストラ』をよく読むと、超人は人間がなるのに不可能な存在として描かれているわけでは決してありません。むしろ、人間が進む姿、理想形を現したものであるのは間違いありません。ニーチェは超人が必ず出現し、それは当然普通の人がなるのです。ただし、弱者は決してなれず、強者がなる存在だといっております。

『ツァラトゥストラ』のテキストで超人を語った部分を引用してみましょう。

私はあなたがたに超人を教える。人間とは乗り越えられるべきあるものである。あなたがたは、人間を乗り越えるために何をしたか。

(中央公論社世界の名著46『ニーチェ』『ツァラトゥストラ』手塚富雄訳より。以下、『ツァラトゥストラ』の引用はすべて本書)

この文章を読むと、超人とは何か行動を起こすことで人間が人間を乗り越えた後の形態であることがわかります。存在の形態、そして行動が大事なのだということがわかります。

超人は大地の意義である。あなたがたは意志の言葉としてこう言うべきである。超人が大地の意義であれと。(『ツァラトゥストラ』)

この文章はどうでしょうか。超人は大地の意義である、といいます。その意味はすぐ後の文章を読むと、「大地に忠実」であることと関連します。天国を思い描くのではなく、大地に忠実である、ということです。空想より現実を大事にする一種の現実主義をここではいっているのです。人間は上をみてすぐ天国へいけば必ずもっとよい環境でいるはずだ、と思い描きます。ところが超人は、上を見ることをせず、ただ現実を直視し、何よりこの大地を足がかりとして物事を語り、行動します。これが”大地の意義”の大まかな意味です。

という風に、超人について語っている部分はあまりにも多く、なおかつ結構わかりづらい表現がなされている部分も多いので最初は難解だと感じられるかもしれない『ツァラトゥストラ』ですけれども、ここで超人の特徴について語っておきましょう。

<超人の特徴>

  • 人間が人間を乗り越えたあとの形態
  • 没落する存在
  • ひとつの徳を発揮し、その精髄になろうとする
  • 贈るばかりで返礼を期待しない
  • 有言実行

超人の対局概念「末人」

ニーチェは超人の対概念として、「末人」(終わりの人)という概念をあげています。末人の特徴をここに列挙しましょう。
  • 教養を誇りとする
  • 軽蔑されることを嫌う
  • 非生産的存在
  • 健康にばかり気をつかう。健康がなによりも幸福だと思っている
  • 働くが、貧しすぎることも富すぎることもない
現代文明の末に生まれた人、といってもいいでしょうか。つまらないことばかりに気を使って、自分を浪費させている小さな人間といったイメージです。

人間、超人、末人の関係

人間は自信を乗り越え、超人となることができます。ところが現代文明に染まった上、人間は末人に堕落することもあります。

その関係を簡単に書くと次の通り。

<人としての質が低い> 末人←人間→超人 <人としての質が高い>

ハイデガーのダーザイン(現存在)というあり方

ハイデガーの『存在と時間』におけるダーザイン

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ドイツの哲学者マルティン・ハイデガーは難しい哲学書として有名な『存在と時間』において、ダーザインというあり方を提示します。

ダーザインとは、存在そのものといった意味で、現存在とも呼ばれます。

現存在とはどんな存在か。ハイデガーによると、それは「死ぬ存在」です。死ぬ存在であるから、自分を一番気遣う存在でもあります。自分の次に気遣うのは、道具です。自分の身の回りにある道具を気遣い、これを道具的存在者といいます。なぜ道具を気遣うかというと、道具を気遣うことで結局自分を気遣うわけです。

そして道具こそ、現存在が最初から了解していることなんです。世界とは現存在と、現存在のまわりに道具的存在者があり、現存在(人間)と道具とが交渉して存在しているんです。そういうことだから、現存在とは世界内存在であるといえます。ここにただ事物としてある存在である、事物的存在者が現れます。

現存在とは人間の存在のしかたです。死ぬという自分の存在を引き受けて生きる、実存という存在のしかたこそが、現存在なのです。

そして実存とは人間の可能性のことです。人間はつねに自分の新しい可能性を模索します。その瞬間ごとの可能性を探そうしているのです。

現存在(ダーザイン)の本来的あり方(本来性)とはどういったものでしょう。現存在が死をみつめつつ、死の可能性を常に考えて行動するということです。対して非本来的な生き方とは、人間が死から目をそらしている状態そのものです。

ここで考えてみましょう。本来的なダーザインとはどういうものでしょうか。次の言葉で定義することができます。

<本来的なダーザイン>

死を見続け、死の可能性を考えて、一瞬一瞬を全力で生きる存在

ダーザインの対局概念「世人(ダスマン)」

ニーチェの末人と同じように、ハイデガーも世人という概念が存在します。

世人の特徴を列挙しましょう。
  • 例外を許さない
  • 存在の責任を引き受けない
  • 死を忘れさせる
  • 頽落している

ダーザインの本来性と非本来性の関係

非本来的な現存在(世人・ダスマン)←現存在→本来的な現存在

ブッダの超越的概念「ブッダ(仏)」

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歴史上のブッダとは、ゴータマ・シッダールタ(釈尊)という人そのものをさします。しかしブッダとは、インドの言葉で「悟った人」という意味です。ですから「悟り」を体験した後の状態がブッダという存在なのです。ブッダとは、日本語でいう仏のことで、如来とも訳される言葉と同じ意味です。

釈尊は人間はだれでも悟りを開くことで「ブッダ」になれると説きました。そしてブッダになった人は悲しみを超越できるのです。

悟りを開くために仏教の修行者は修行しています。

いろんな経典に依拠すると、悟りとはあることをきっかけに「現実を直視する能力」を手にいれることだとわかります。

あることとは人によって異なり、だから釈尊は対機説法といって人によって違う修行方法を提案したりするわけなので、仏教は複雑だと捉えられますが、実際は悟りこそゴールなのです。

では悟った人の特徴とはなんでしょうか。

<ブッダの特徴>

  • 一切皆苦を超越している
  • 現実をあるがままにみることができる
  • 妄想や執着にとらわれない自由な存在

三者の説く人間の理想的あり方のまとめ

今回はニーチェ、ハイデガー、ブッダの説いた人間の理想的あり方をみてきました。

それぞれ、超人、ダーザイン、ブッダというあり方が望ましいものとされました。

そのありかたとして、一番共通するのは実に「物事をあるがままに見て、一瞬一瞬を本気で生きる」ことだとわかりました。

ぼく自身、完全にそうは生きられていない部分もありますが、とはいえ彼らの思想と近い部分を大事にしたいと思う部分もありました。

あなたはいかがですか。超越的な人間になるのを不可能だと考えずに、可能な人間のあり方を彼らは説いていると考えたとき、なにができるでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございます。それではまた。

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