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ジャン・ジャック・ルソーの思想概論

2021/05/13
 
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どうもこんばんは、たかはしさとしです。ちょっとネット上で知り合った方の要請にて、フランス革命の思想家といわれる、ルソーの思想がつかみづらいという話が合ったので、ここで要点を解説したいと思います。


ジャン・ジャック・ルソーという人

フランスの啓蒙思想家で、社会契約説を唱えた人物がルソー(1712-1778)です。スイスのジュネーヴで生まれました。若いころ男爵夫人の愛人となって、独学で学問を学びました。30歳の時にパリに出て、啓蒙主義者ディドロと交流して、『百科全書』の音楽の項目を執筆します。1750年処女作『学問芸術論』を書き上げて、一躍時代の寵児となります。5年後の1755年『人間不平等起源論』を刊行。人間の自然状態(※1)を自己保存の必要性ゆえ他者に配慮する憐みの感情をもった平和な状態だと説き、不平等の発生原因を社会形成期における私有財産制度にあると考えました。つまり人間は自然状態が良い状態で、文明状態が悪い状態だと考えたのです。

1762年、『社会契約論』を発表。まず人民に主権があることが大事だと説きました。それがフランス革命の思想たるゆえんです。ルソーは一般意志特別意志(その特別意志の総和としての全体意志)の2つの意志があると考えて、公共の福祉(利益)を求める一般意志が政治上はとても大事だとして、特別意志や全体意志が出てこない体制こそが理想だと考えました。つまり、間接民主制より直接民主制が大事だといったわけです。

同年、『エミール』刊行。一般教育学の名著として知られています。理性に基づく普遍的な自然宗教こそ、人類に必要な宗教だと考えました。


name="U72dK">晩年に『告白』という著書を発表しています。愛人との間にできた自分の子どもを孤児院に次々と入れたりする『エミール』を書いた人とは思えない行動をとっていたり、お尻を公衆の面前で出して警察に逮捕されたあげく、「あの女の人たちに私のお尻を触ってほしかったんだ」などというなど、ただの変態だったのではないか、という疑惑のある話もいっぱい残っています。

ルソーの後世への影響は次の通り。フランス革命の原動力の一つとなったルソーの思想ですが、ロベスピエールという独裁者はルソーの偏愛者でした。ルソーの思想に則って、普通選挙と法の下の平等を実施しましたが、敵対しそうな政治家などを次々と処刑する恐怖政治をしきました。それゆえルソーの思想は全体主義の起源として評価されることも欧米では多いです。

日本の場合、ルソーを主に紹介したのは中江兆民です。中江兆民の弟子にもやはり過激な革命的思想家がいっぱい出てきて、特に幸徳秋水はその代表です。

だいたい要点はここで説明しましたが、個々の著作とかで大事なところについて少しずつみていきましょうかね。ちょっと社会科でよく使われる用語ばかりでよくわからない、という方もご安心を。各論でしっかり説明していきます。


『学問芸術論』の要点

ディジョンのアカデミーの懸賞論文『学問と芸術の復興は習俗の純化に寄与したか』に応募して書いたルソーの論文。学問と芸術の復興という箇所を見ると、いまだにルソーの生きた時代でも、ルネサンス(文芸復興)のことが意識されていたのがわかります。

この論文に対するルソーの答えを要約するとこうです。

学問と芸術が発展したことは、人間に奢侈、つまり必要以上のぜいたくをもとらすことはあっても、習俗の純化にとってはむしろ悪である。


name="xg5ND">アカデミーは当然学問と芸術を中心として行う場所です。そこで期待された答えは、当然習俗の純化に寄与したことに対する肯定的な答えだったでしょう。ところがルソーはその美文と情熱的文章のおかげで、否定的な答えをつきつけたのにも関わず、ディジョンのアカデミーの審査員の心をとらえ、なんと当選してしまいました。こうしてルソーの痛烈な文明批判/体制批判の道が開かれていったのです。

『人間不平等起源論』の要点

本書もディジョンのアカデミーの懸賞論文に対する答えとして書かれたものです。二部に分けられて書かれています。

第一部は人間の不平等の原因は何か、ということに関する考察です。上述したように、ルソーは自然状態を良いものだと考えます。だからルソーは不平等の原因は社会的、人為的なものであると断じます。

そこで第二部では不平等の原因である社会的なものとは何かを特定しようとする考察がなされます。社会状態・文明状態ができたのはだます人が現れた結果だ、とルソーは考えます。そして、だます人が得をする私有財産制度を作り上げて、不平等は生まれたんだ、と言います。

こういった考察で終わってるのが本書です。代替案などは何も出されていません。だからこそ書かれたのが主著『社会契約論』です。


『社会契約論』の要点

社会契約に基づいた民主主義社会の成立を論じたルソーの主著である『社会契約論』。ホッブスの社会契約説を批判的にして乗り越えようとしているのが特徴。

『社会契約論』の中心思想は人民主権(主権在民)にあると言っていいでしょう。読んで字のごとく、人民に国家の主権があるということです。当時のフランスは国王が主権を握っていましたから、当然ルソーは本書を発表することで危険思想家だとみなされるようになりました。


name="B576R">民主主義を考える上で、ルソーは一般意志と特殊意志の二つを明確に区別しようとします。一般意志とは、公共の利益をめざす普遍的な意志のことです。たとえば大きな空港を海の上に建設するとしましょう。当然、近くに住んでいる人は騒音問題や海を埋め立てることで漁業が不振になったりする諸問題が発生するでしょう。でもそういう問題は一部の人の問題ですね。社会全体が享受する利益が公共の利益なので、空港を建設する公共の利益がそれら諸問題で受ける損害を補填して余るくらいのものなら、一般意志とは空港を建設することであると言えるでしょう。ここで一つだけ一般意志の問題点を挙げておきましょう。ずばり全体主義的な考え方が形成されやすいということです。

対して特殊意志とは、個人の利益を追求しようとする私的な意志のことです。その特殊意志の総和が全体意志です。イギリスの代議制、つまり間接民主制は全体意志に基づく政治だとルソーは批判しています。だからこそ一般意志を実現する仕組みは直接民主制しかないとルソーは考えました。

このような思想がフランス革命の理想として崇められ、フランス革命は成就し、フランス人権宣言が採択されました。そしてアメリカ独立戦争(アメリカ独立革命)やアメリカ合衆国憲法にもジェファーソンを通じてルソーの思想は色濃く反映されている、と言っていいでしょう。


ルソーの思想まとめー社会契約説上のルソーの位置

一番最初に実はまとまっていたので、あえて二重に同じようなことを書くことはしません。社会契約説(※2)の流れでルソーの思想をまとめてみましょう。


name="1LxMX">社会契約説を最初に提起したのはイギリスの思想家ホッブズです。ホッブズは主著『リヴァイアサン』で、人間の自然状態は「万人の万人にたいする戦争状態」だと指摘します。だから戦争状態から脱するために、旧約聖書に登場するレヴィアタンという怪物のような国家を形作る必要がある、と考えました。そしてこの国家を超えるさらに大きなリヴァイアサンができるかもしれない、と国際社会にとっても興味深い記述も残しております。

次に社会契約説を批判的に受け継いだのがイギリスの哲学者ジョン・ロックです。『統治論』(『市民政府二論』)において、人間の自然状態は自然法にそった完全に自由な状態にあって、服従関係のない平等な関係であった、と仮定します。労働によって所有権が生まれ、所有権こそすべての人間が持つ基本的な権利だと考えました。この所有権を不正に侵されることがあれば、当事者は抵抗することができるという抵抗権もあると言いました。現状はその自然状態に足りない部分を補填した改良された自然状態だということができる、とロックは考えたのです。人民の抵抗権というものも近代国家によっても有効だとも考えました。

ホッブズは自然状態が悪で現状が善、ロックは自然状態が善で現状がより高い善、ルソーのおいては自然状態が善で、現状が悪だと考えました。

という風にまとめることができます。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。わからないことなどあれば、ぜひ気軽にコメントなどください、


註釈

※1自然状態…人間が生まれて文明も何も状態でおかれて育っていけばどういう状態になるか、という思想上の仮定状態。ルソー以前にもホッブズやロックの社会契約説では多用される。現代のアメリカの法哲学者ロールズのヴェールをはがした原初状態も一種の自然状態だと言われることがある。


name="Fub8e">※2社会契約説…社会や国家は、構成要因である個人の相互間の、自由意志に基づく契約(決まり事)によって成立すると考える理論。

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Comment

  1. ルソーは名前しか知らない偉人の代表格です。ありがとうございます。
    —–COMMENT:
    竹林博士
    ありがとうございます。名前だけで思想はほとんど知らない人って案外いますよねー。知っていただけるきっかけになってうれしいです!

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