カント―学の基礎付け
カントは柔軟な体系を築いた。『純粋理性批判』における自然法則の因果性、『実践理性批判』における究極原因としての自由の可能性、その二つの媒介としての、『判断力批判』における目的論および判断力を中心となす体制。カントは一般に大陸合理論とイギリス経験論の間に位置するといわれる。たしかにその通りなのであるが、その視点は一定の場所から批判を行なうのではない。時には合理論的視点、時には経験論的視点へと様々な移動を伴うものである。その柔軟な視点の移動こそ超越論的、先験的という彼の態度に他ならない。
形而上学はかつて諸学の女王だったが、カントの時代には形而上学はその女王の座からすべり落ちていると見られていた。カントは形而上学を再び女王の座へ着かせるため、形而上学の再建を図ったのであった。そのために必要だったのが、形而上学の中心に位置する理性に対する批判であった。カント以前には、理性には神が必然として付きまとった。それをカントは取り除いたのである。神が理性をもたらすという仮象を。ハイネが「神の首を切り落とした」と言ったのは、その意味においてである。理性批判の端緒となったのは、4つのアンチノミーである。これらは実際にはアンチノミーをなしておらず、超越論的仮象であることがわかるが、その解決がカントを体系への道へと推し進めた。
形而上学を女王に位置づけようとするとは、必然的に諸学の基礎付けを行なうことを意味する。そうした取り組みはデカルト、フッサールにも見られるが、カントはまさにその両者の間に位置する。