社会は契約によって成り立つー社会契約説を唱えた3人の男
どうも、哲学エヴァンジェリストです。前回まで個人の自由の問題について考察してきました。
今回は視点を変えて、社会と自由の関係について考えていきます。社会というと簡単にいうと人の集団。人の集団における自由について書いていくことは、歴史的な方法をとることもできますし、思想的な方法をとることも可能です。今回は社会思想入門ということで、思想的な立場から社会について論じるわけです。自由は次に置いておいて、社会がどう発展してきたか古典哲学で考えられたことについて見ていきましょう。
ホッブズ『リヴァイアサン』
現代社会思想の潮流をさかのぼっていくと、行き当たるのがイギリスの哲学者ホッブズの『リヴァイアサン』という書物。リヴァイアサンとは旧約聖書に登場する海の怪物です。ファイナルファンタジーというゲームをプレイしたことがある人は召喚獣として出てくるので知っている方も多いと思います。自然状態
本書でホッブズは自然状態という、人間が社会を構成していない原初状態について考察しています。『リヴァイアサン』という書物の名前よりも、この言葉のほうが有名かもしれませんね。人びとは、すべての人を威圧しておく共通の力をもたずに生活しているあいだは、かれらは戦争と呼ばれる状態にあるのであり、そして、かかる戦争は、各人の各人に対する戦争と呼ばれる状態にあるのである。
ホッブズ『リヴァイアサン』河出書房世界の大思想版
ホッブズの生まれた時代、大航海時代が始まり各国は各地で戦争に明け暮れていたのでした。人々の間で不安、恐怖、絶望といった負の感情が蔓延しており、戦争続きの中世の暗黒から脱したいと望む人が多かったのです。ホッブズ はその世相を反映し、人間が国家という力に支配されていない間は、戦争を起こすしかないと言うのです。
国家
リヴァイアサンというのは、端的にいうと国家のことです。人間が戦争状態から脱するには、すべての権利を放棄し、リヴァイアサン(=国家)という化け物に権利を移譲しなければなりません。そうして巨大な権利をもつ国家が誕生します。国家のもとでは恐怖による支配ではありますが、人間はかろうじて戦争による隷属状態から解放され、多少の自由が享受できる、とホッブズは言います。コモンウェルス(良識)が形成され、人びとは戦争による隷属状態よりはるかにましだろう、とホッブズは悲観的に指摘します。ただしホッブズのリヴァイアサンは何カ国もの巨大なリヴァイアサンが誕生して、そのリヴァイアサン間でより大きな戦争を起こしているので、この状態から脱する術は記されていません。
自然状態→国家
簡単にいえば、自然状態から国家に移行すると言う思考モデルを社会契約説、といいます。社会契約説の代表的論者が今述べたホッブズ、そしてイギリスの哲学者ロック、フランスの思想家ジャン・ジャック=ルソーの三人です。個人個人が自分の権利を守れないために、社会や国家に権利を渡す契約を行う説とも言えます。それではロックとルソーについても簡単に触れましょう。ロック『市民政府二論』
ロックは自然状態を次のように規定します。万人が他人の権利を侵したり、相互に危害を加えたりすることのないように、そして平和と全人類の保全を願う自然の法が守られるように、自然の状態において自然の法の執行は各人の手に委ねられている。
ロック『統治論』中央公論社世界の名著版
自然の法とはなんでしょう?
自然法とは、人間の本性に基づく倫理的な原理(広辞苑)。時空を超越した普遍的な法。
簡単にいうと、自然法とは人間の本来あるべき姿(自然状態)において従うべき、普遍的に使える倫理の原則のことです。
ホッブズの場合は自然状態とは戦争状態だったのが、ロックの場合は自然状態が平和そのものになっていますね。もっともロックはこの統治論の基礎として考えたのが聖書だと言われており、いわば自然状態=エデンの園、楽園そのものを想定して書いたのかもしれません。
そしてロックは政治社会の起源については、他人の自由や権利を侵害しないため人びとは合意に基づく社会契約を結んだのだ、と言います。権利とは生存権や選挙権、所有権のことです。
ロックの場合、自然状態、国家(社会)、ともに良いものと考えられているのです。ホッブズの悲観的なのに対して、ロックはなんというか楽天的ですね。これは啓蒙主義が盛んになった時代にロックは生まれたわけですから、当時の社会情勢と合致するものと言ってもいいでしょうね。
ルソー『人間不平等起源論』『社会契約論』
フランスの多才な思想家ルソー。フランス革命の思想家ルソー。彼は自然状態こそ人間としての最高の状態だったと指摘します。ルソーによると、自然状態とは自然人が理性を駆使せずに自由に生きている状態です。それが社会を構成するようになり、社会的に階級が生まれ、社会的不平等が生じます。社会的不平等をなくすため、人びとは考えます。そうだ、直接民主制による国家を打ち立て、必要最小限の権利を国家に委譲し、不平等がない社会を作ったらいいじゃない!
そしてフランス革命の代表的思想家と彼は呼ばれます。
簡単にいうと、自然状態最高、でも社会ができて不平等になった、だから不平等を解決するために国家を打ち立てよう!というV字回復ストーリーを打ち立てたルソーは、革命と民主主義の思想家として長らく歴史に名をなくすことになりました。わかりやすいストーリーが人々を動かすのは今も昔も変わらないというわけです。
まとめ
ホッブズ、ロック、ルソーの社会契約説について簡単に見てきました。悲観的なホッブズは戦争状態から脱するためにリヴァイアサンに権利をすべて渡すことで人びとが生き残ることができたのだ、と指摘しました。ロックは自然法の行使に社会や国家ができたのだ、主に所有権が拡大してきた時代でしたから、所有権を守るために国家が調停役としてあるというイメージが強いです。そしてルソー。彼は後世の人を動かす革命のストーリーを学問芸術論、不平等起源論、契約論で打ち立てたのでした。読みやすいのは俄然ルソーの社会契約論です。もしよければよんでみてください。