人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

フロムが強調する”愛するという技術”を実践する

 
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どうも、哲学エバンジェリスト高橋 聡です。ブログの更新が久しぶりになりましたが、再開しますのでまたよろしくお願いします。

さて今回は書評を書きたいと思います。今回紹介するのは、心理学者エーリッヒ・フロムの『愛するということ』という書物です。

では早速みていきましょう。

読む前の私の考え

この本を読む前に愛について私が思っていたのは次のようなことです。

  • 愛することより愛されることの方が難しい
  • 出会いがなく愛する対象がいないから、愛せない
  • 愛とは感情であり、技術ではない

これらは直感的な考察や常識に近いことですが、世間的によくみられる考え方であると思います。実際にぼくもそのように思っていました。

次にこの本で主張されていることについてみていきましょう。

『愛するということ』で主張されていること

著者エーリッヒ・フロムについて

エーリッヒ・フロムは元々はドイツのユダヤ系心理学者で、フランクフルト学派に所属する心理学者でした。初期の主著『自由からの逃走』でナチスドイツの圧政に人々が自由を避けてどうしたがっていくかが述べられています。第二次世界大戦後になって”愛”を主題に書かれたのが『愛するということ』です。オーストリアの心理学者アルフレッド・アドラーやアメリカの心理学者アブラハム・マズローとも親交があり、自宅のあったメキシコに日本の仏教思想家である鈴木大拙を呼び、共同研究したことでも知られています。

フロムの言いたいこと

さて著者であるフロムが言いたいことは”はじめに”に書かれています。その一部を引用しましょう。

この本は読者にこう訴える。ーー自分の人格全体を発達させ、それが生産的な方向に向くよう、全力をあげて努力しないかぎり、人を愛そうとしてもかならず失敗する。満足のゆくような愛を得るには、隣人を愛することができなければならないし、真の謙虚さ、勇気、信念、規律をそなえていなければならない。

(『愛するということ』p5)

つまるところこの本が訴えることは次のことです。

人を愛することは思っているよりずっと難しい。自分の人格的な成長と、成長に向けての全力の努力があってはじめて、人を愛することは成功するだろう。満足のゆく愛というのは、愛するだけの問題ではなく、人格の特性としての偽りではない真の謙虚さや勇気、信念、規律をあなたがもっていなければ得ることは決してない。

愛することは簡単で、愛されることのほうが難しいと考えている人は多いでしょう。ところがフロムは最初からこのことを否定し、さらに愛するには主体性と向上心、全力で愛することが必要なうえ、さらに謙虚さ、勇気、信念、規律もまた必要だと言うのです。

それがどういうことなのかは、本書『愛するということ』を読み進めていけばわかるようになっています。では次に移りましょう。

愛とは技術である

フロムは愛は技術だと前提条件に立って、愛を論じていきます。

その前に愛に関する一般的に流布されている誤解がある、と前置きしてその誤解の中身を指摘します。

代表的な三つの誤解をここでは見ていきましょう。

愛とは愛されることであるという誤解

「どうすれば愛されるんだろう?」「愛されたいなあ」ずばり愛に関する誤解の一つがこれです。すなわち、愛とは愛されることであるという誤解です。

でもフロムは断言します。「愛とは愛することのなかにある」と。愛は主体的に自分から愛する人のところでのみ生じます。愛されているだけのうちは優しさは感じても、愛されている人のなかには愛が生じることはありません。だから、愛は愛することの問題であって、愛されることの問題ではないのです。

愛とは愛する相手の問題だという誤解

「あの人と恋愛できたらいいなあ」こういう感覚は愛とは無縁である、とフロムは言います。愛とは愛する相手の問題であるという誤解がここにあります。

愛とは愛する相手の問題ではありません。そうではなく、愛する能力の問題なのです。つまり相手がどうであれ、自分が愛するということが愛の問題ということです。

愛とは恋に落ちた感覚と同じであるという誤解

「一目惚れの初めての感覚のまま、相手とお付き合いし続けたらなあ」というのは、また愛を誤解しています。つまり。愛とは恋に落ちた感情と同じものであるという誤解がここにはあります。

フロムは愛は感情ではない、と断言します。そのうえで愛は愛する能力の問題であって、技術で高めるしかないというのです。つまり、愛するということは努力と治世をもって訓練が必要なのです。

技術習得の3段階

技術を習得するには、3つの大事なことがあるとフロムはいいます。その3つを挙げます。

①理論の精通

②習練に励む

③技術の習得自体が最大の関心事である

①と②はわかりやすいですね。でも技術の習得で一番大事なのが③だと私は思います。関心をもっていないことを覚えるのは無理だし、すくなくともその技術の練習中は最大の関心を寄せて練習しなければ、習得はありえないと感じます。

愛の理論

愛の理論は人間の実存についての理論からはじめよう、とフロムはいいます。

まず大事なのが、孤立から不安、恥、罪悪感がうまれるということです。孤立している人間は全く無力感を感じるしかなく、人間としての能力を発揮できません。そうしたときに人が感じるのが不安や罪悪感だとフロムは指摘します。

そして人間にとって最も強い欲求が孤立の克服、孤独の牢獄からの脱出なのです。これにはさまざまな手段で人間は対抗しようとしますが、本当の一体化は愛するということだけが効果的です。

ちなみにサディズムとマゾヒズムとの関係のような支配と服従の関係は愛の関係ではありえません。

本当の愛とは、自分の全体性と個性を保ったままでの結合だといいます。

そして愛の特徴として、なによりも愛とは与えることである、とフロムは言うのです。愛とはもらうことではありません。

非生産的な人にとって与えることとは貧しくなることだと勘違いしています。逆に生産的な人は与えることは自分の生命力の表現なのです。

愛に共通する特質は次の四つです。

①配慮

②責任

③尊重

④責任

特に大事なのが、③の尊重です。尊重とは、本来「相手のあるがままの姿をみる」という原義があります。あるがままの通りに相手を受け入れる、受け取るということができれば尊重できているということなのです。

現代における愛の崩壊

現代において、人間は機械部品の一部のようになっています。そうしたなかで、本当の愛は失われています。

フロムはこの状況を的確にもこう表現しています。

現代人は自分自身からも、仲間からも、自然からも疎外されている。

人は商品化され、自分の生命力を切り取って売っているのです。

本当の愛は崩壊し、偽りの愛がはびこるなか、どうすれば本当の愛を磨いていけるのかが次の段落で語られます。

愛の習練

愛を実践するにはどうすればいいのか。それには4つの特性が必要だとフロムはいいます。

①規律

②集中

③忍耐

④最高度の関心

このうち②の集中ということが特に大事だとぼくは感じます。集中するということは、いまここで全身で現在を生きるということにつながります。

あとは自発性、つまり自分から人を愛そうとすることも大事です。

ここでフロムは変わったことをいいます。”一人でいられる能力こそ、愛する能力の前提となる”という言葉です。ここにはフロムの独創性があります。考えていきましょう。

まず一人でいられる時間というのは、自分と向き合うことができる時間とも言い換えることができます。自分と向き合うことで自分について知ることができます。自分自身について知ることで相手について考えたり、相手のいうことを聞く姿勢が手に入ります。そうしたことから、一人でいられる能力が大事になるのです。

また他方からみると、愛するということは、ナルシシズムの克服という側面があります。客観性をもった愛と、主観性の塊であるナルシシズムは対極にあるものです。

さらに愛の習練の進歩において、最も大事なことは、自分の愛は信頼に値するもの、他人の中に愛を生み出すことができるものだと信じることなのです。

読んだ後私の考えが変わったところ

箇条書きにします。

  • 愛とは技術であって、自分で鍛えないといけないものだということ
  • 対象の問題ではなく、愛とは愛する能力の問題だということ
  • 本当に愛することは難しいが、その分やりがいがあるということ

読んだ後やる行動

愛を模索する、以上!

最後に

愛するということは、人を思いやることである一方、それ以上に訓練がいる技術だというフロムの説明は、斬新ですね。

愛とはただの感情ではない。愛するという行為の中に愛が存在するというわけですから、愛は深いですね。

あなたもぜひ、フロムの本書『愛するということ』を手に取って、読んでみてください。

それでは最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

購入リンクも貼っておきます。




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