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デュルケームの人と業績⑤『自殺論』Ⅰ

 
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 本書は社会学的方法を用いて自殺に関する独特の理論を展開し、社会学的方法の独自性とその適用の有効性を学界に知らしめることをめざしたものである。
 従来、自殺傾向の社会による違いは非社会的要因が考えられてきたが、デュルケームによればそれは誤りか不十分である。自殺という現象を正しく十分に説明するには、社会的要因による社会学的説明が必要である。自殺はそれを引き起こす社会的要因によって三つのタイプに区別される。
1.自己本位的自殺
 自殺者が属している社会集団の凝集性が弱く、その内面的な結束力が弛緩している場合に生じる自殺の形態を自己本位的自殺と呼び、社会集団の凝集性の強弱による自殺率も変動する。
例:A 信仰集団→成員個々人に対する統制力や集団としての結束力はカトリックの法が大きく、プロテスタントよりも自殺は少なくなる。宗教自体が一つの社会であり、そのすべての信者に共通の嗜好や儀礼が多く、また強いほど宗教的共同体も緊密に統合され、それだけ自殺の抑止力も強い。
B 家族集団→家族集団の密度が高くなるにつれ自殺率は減少
C 政治社会→大戦争の際の自殺率の減少など。社会的激動の際には政治社会の凝集力は増大し、さまざまな活動が同じ一つの目的に向かって集中され、一時的にきわめて強固な社会的統合が実現する。
2.集団本位的自殺
 自殺者の属する社会集団の凝集性や統制力があまりに強く、その集団に対する一体感や帰属性の度合があまりにも強いために起こる自殺の形態を集団本位的自殺と呼ぶ。その成員が自己没却的であればあるほど自殺は多くなる。
例:未開社会の成員がその集団の名誉のために戦死すること。また軍人や兵士の名誉の死というものもこれにあたる。
3.アノミー的自殺
 ある社会が突然の機器に見舞われ、アノミー=無規制状態に陥った場合に起こる自殺の形態をアノミー的自殺という。アノミー(anomie)とは元来「神の法の無視」という意味のギリシャ語で、デュルケームが社会学用語として復活させたものである。
 社会的無規制のゆえに過度に肥大した人々の欲求が危機的状態に直面して不意に満たされなくなったために起こる狂気じみた焦燥や激しい憤怒が動機となって引き起こされる自殺である。
例:アノミーが慢性的に起こっている当時の商工業界
※宿命的自殺
 過度の規制から生じる自殺であり、無常にも未来を閉ざされた人々のはかる自殺を宿命的自殺と呼ぶ。極度の物質的・精神的独裁の横暴を原因とするようなすべての自殺。デュルケームはこのタイプの自殺の例を引き出すことは難しいと判断し、検討する必要がないとした。(述べられているのも本文中ではなく脚注)
 次に自殺の複合形態について述べる。

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