人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

サンデル『これからの「正義」の話をしよう』を読む前に知っておきたいこと

2022/11/16
 
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どうもこんばんは、高橋聡です。最近はブログをさぼりがちになっておりましたが、アウトプットの場が少なかったので少しずつ更新していこうと思っております。

最近私自身で読書会を主催するようにもなりました。サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』(以下、『正義』)を読んでおります。他のコミュニティでも、スティーブン・コヴィー『完訳 7つの習慣』の読書会なども行ったり、いろいろやってみて学ぶことがたくさんあることがわかってきました。集まったメンバーが良い人が多いため、話もとてもおもしろくて、着眼点もその人ならではのものが聞けるのでものすごく勉強になります。

さて、今回はサンデルの『正義』を読む前に知っておきたいことをここにまとめたいと思います。

サンデルの『正義』の原著のタイトル

この本の英語でのタイトルは次の通りになります。

“Justice:What’s the Right Thing to do?”

直訳すると

  • 『正義ー何がなすべき正しいことか?』

となります。

本書のメインテーマはずばり“正義”です。日本語より原理的に正義を考えていきそうなタイトルですよね。サンデルはこのタイトルで何を基準に正義を判定するのが正しいのか、を問おうとしていることを伝えようとしているようにぼくは感じます。

『正義』の2つの方法的な特徴

『正義』には2つの方法的な特徴があります。

  1. 対話的・弁証法的な手法を用いて道徳的ジレンマを考えていく
  2. 現代から近代、古典時代へとさかのぼって、議論を展開する

この二つです。一つずつ少し詳しく見ていきましょう。

対話的かつ弁証法的に道徳的ジレンマを考える

まず一つめの特徴は何を意味するでしょうか。

サンデルのこの本は読者に問いかけるように書かれています。とある道徳的ジレンマがあって、その問題をあなたならどう自分なりの結論を導き出すか、常に自分の考えを点検してくれ、というメッセージです。

例えば、暴走する路面電車の場面を考えましょう。路面電車が暴走していて、このままだと進路上にいる5人が犠牲になりそうだ。路面電車の運転手が命をかけて止めると路面電車は止まると仮定しよう。その際、5人が犠牲になることと、運転手1人が犠牲になること、どちらが道徳的に正しいとあなたは考えるか。

そうしたことに対して、サンデルはどのように考えられるのかを相手に語りかけるように、そして矛盾を解消しながら深掘りしていきます。

現代から近い過去、遠い過去へと遡り議論を展開する

これはサンデルが良く使う話の展開の仕方です。現代から少しずつ、少し前の考え方、遠い昔の考え方へとたどっていく方法です。ふつう最も古い過去から現代へと近づくように編纂された歴史を学ぶのとは、逆の話の展開の仕方ですね。

『正義』でいうと、まず経済学などが前提としている功利主義が考察され、その次にリバタリアニズムという経済的自由を取り上げて大事にしようとする考え方を取り上げています。そしてリベラリズムからアリストテレスの徳倫理学的発想に向かって議論が進みます。今から遠い昔に向かって流れているんだな、と意識して議論を追ってもらうとわかりやすいかもしれません。

暴走する路面電車と三つの正義の判定基準

ちょっと具体的に考えましょうか。上で挙げた暴走する路面電車の例を考えたとき、5人と1人の命を比べたら5人のほうが多くて価値があるから、運転手1人の犠牲を選ぼう、という考えが頭によぎるのではないでしょうか。この考え方はあとでも取り上げますが、功利主義という考え方に基づいています。

いや待てよ。故意にではなく、いやおうなしに仕方なくその状況におかれた運転手には過失はない。運転手は自分が犠牲になって路面電車を止めることを選ぶ自由もあるし、逆にそのまま5人を轢いて自分だけ命が助かる自由もあるんじゃないだろうか。このような考え方は、自由や権利を大事にする考え方です。リベラリズムとかリバタリアニズムといった考え方に基づいて各人の自由を大事にすることもできるでしょう。

そのように無理にその状況におかれたとしても、運転手が命を投げ捨ててでも、5人の犠牲者を出さない方法を選択するのが社会的にふさわしい行動ではないか。そのような考え方もあります。これはアリストテレスが提唱した徳倫理とかコミュニタリアニズムと近い判定基準ですね。

正義論の三類型

このように、正義論には三つのおおざっぱな類型があることを押さえておいてください。

  1. 「福利の最大化」(帰結主義):福利型正義論⇒功利主義
  2. 「自由の尊重」(義務・権利論):自由型正義論⇒リベラリズム、リバタリアニズム
  3. 「美徳の促進」(目的論):美徳型正義論⇒コミュニタリアニズム

このように3つあることを抑えてみてください。ここらへんをおさえていると『正義』が読みやすくなること間違いありません。

以上、ありがとうございました。

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