人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

2022年マイベスト読書本15選総評

 
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いまさらですが、2022年に読んだ本で特に注力して読んだ15冊は自分で自覚していますけど、こうした本に対して自分が評価するということは差し控えておりました。一言二言でも自分の中で何を得たか、簡潔に表現できるようでないと意味がないな感じたため、2023年には入ってしまいましたが、こちら15選の振り返りをここで行います。

人間塾in関西の課題本12冊

1月 森信三『修身教授録』

明治から平成を生きた哲学者にして教育者である森信三先生の天王寺師範学校の修身の講義録。森先生は平易な言葉で人生にとっても最も大事なことは何かを考え抜いた方で、「人生は二度とないんだから、その一度きりの人生を生き抜かなければならない」ことをこの修身教授録で何度も述べておられます。また、どんな出来事もネガティブにとらえて投げやりな態度になりがちな悲観主義(ペシミズム)ではなく、人生で経験するすべての出来事は神が私に与えたもうた最善の試練ととらえる最善観(オプティミズム、楽観主義)の大事さも修身教授録で説いておられます。この書に触れることで、人生の眠りから目覚め、人生を全力で生きて国や地域に貢献しよう、という気持ちがわいてくるまさしく人生の目覚めの書です。通読したのは昨年1月がはじめてでしたが、何度も読み直す価値のあるとても素晴らしい本です。

2月 河合隼雄『こころの処方箋』

著者はユングの分析心理学を日本に導入したユング派の泰斗、河合隼雄先生。その河合先生の臨床に基づいた随想録のような本書は、こころというものの多様性と、その中にも共通性があることを指摘した読みやすい本です。私たちはコミュニケーションの根底に相互理解可能性があることを前提として行動しているが、本書を読むことでそもそも相手の心はわからないもので、自分の心すら完全に把握することはできないことを自覚したうえでやったほうがうまくいくこともあることを気づかせてくれる。常識を単なる常識としておいておくのではなく、そうした常識には反例がいくつもあり、常識として処理してしまう危うさも指摘しているようにぼくには思える。そうした自分だけで気づくことのない可能性を指摘してくれて、自分のなかでの人がこう感じたり、こう考えたりしているかもしれない、というこころのパターンを増やしてくれる点で、これほど優しくてわかりやす本はないと思う。だからこそ人への気遣いが大事だし、時にはいいづらいこともいう必要があることも僕の中で腹落ちした。一度はぜひ読んでみてほしい。

3月 プラトン『ソクラテスの弁明・クリトン』

プラトンがソクラテス裁判の様子を描いた哲学の古典中の古典。どんなに不利な状況におかれたって、ソクラテスは自分が生き延びるために嘘をついたり、周りの人が気に入ることばかりを言ったりすることはない。全人生をかけてソクラテスが考えたこと、感じたことに基づく哲学から逸れた考えをいうことをソクラテスは絶対にしない。言い換えれば、ソクラテスは自分が感じた通りの真実しか語らない。ソフィストなどとは全く違う生き方をする人物であることが、この書やクリトンでとてもよくわかると思う。この本を読んで哲人ソクラテスの最後の生き様を知り、哲学とは死の準備、まさしく死の訓練という言葉の意味が少しわかった気がする。後世の人間のソクラテス像を作り上げた作品。

4月 執行草舟『脱人間論』

ヒューマニズム、つまり「この私の考えはすべての人間のためだから」、という言明の欺瞞性を徹底的に暴く執行さんの苛烈な思想書。人間のため、という言葉ほどためにならないことはない。ぼくはもろ手をあげて執行さんの意見に賛同するわけではないけれども、私にとっての良いと思っているだけの判断を人類全体にとって良い判断に拡大適用して真理として主張するのは、もうやめにしたほうがいいと思う。そうした点で、執行さんのようなアプローチは劇薬ではあるけれども、人が立ち止まって考える苛烈さを持つので、一度はこの警書を読んで、ヒューマニズムの問題点について私たちは考えるときが来ているな、と感じる。脱人間論、考えませんか。

5月 朱子『近思録』

朱子が主に北宋、南宋の儒学の新学者の説のうち、大事だと考えたところを抜粋して語録にしたもの。朱子のことばや考えに触れることはあるかもしれないが、それ以前の宋学の学者たちのことばに触れる機会は少ないと思うので、その意味で貴重な本。朱子が学びながら自分の儒学を作りだすのに大事にしようとしたところが、この語録の選定基準からある程度理解できるため、大事な古典だと感じる。ただ、一つ一つが現在の考えと隔たりのあるようなアプローチをとることも多く、一読しただけで理解できるものではないことは痛感しました。

6月 アリストテレス『心とは何か』

魂論として知られる古代ギリシアの哲学者アリストテレスの著作。近代科学以前にすでにこれだけギリシア人は科学的見解に基づいた生物観をもっていたんだ、ということにただ感心するしかありません。また心に対する捉え方などが書かれています。一読してみるとよいですが、ただ言葉回しが難しいところがあるのは事実で、読むのに骨が折れます。でも読んだら力がつくし、アリストテレスの考え方もわかってくる上では読んで損はしないので時間があるときに精読してみましょう。

7月 内山俊彦『荀子』

荀子はどういう人物だったのか、事細かく書かれている学術系入門書。荀子の自然主義、礼を重視する考え方、性悪説などの基礎概念は理解できます。直接『荀子』のテキストはあまり出てこないのが難点ですが、入門書として読むには良い感じ。

8月 フロム『自由からの逃走』

フロムは新フロイト派として知られているが、もともとはドイツのフランクフルト学派として活躍する心理学者でした。人間は自由を行使していると勘違いしているが、実際は自由に人間が行使されているのであって、自由を擁護するために様々な論理を持ち出してきて戦争している。全体主義が力を持つに至ったのはなぜか、という分析がこの本の主題です。問題意識としてはハンナ・アーレントやドラッカーとも近いように感じます。この本はぼくが自分で解説文を書いてみんなに配布しました。解説文ではマックス・ヴェーバーの社会学とアドルノやベンヤミンなどを意識して特に解説を加えました。

9月 中村哲『天、共に在り』

アフガニスタンで治水をしまくった中村哲さんがアフガンでの軌跡を書き残した著作。人のために全力で事業を起こしてその地域をよくしとうとするのは、なかなかしようと思っててもできないことなのに、中村さんは即実践あるのみです。日本の治水の伝統技術などをアフガンでいかに活用するために知恵をしぼって向こうで川の水路を作ったりしたのか、こういう人こと君子でしょう。

10月 浅野裕一『墨子』

兼愛で知られる戦国時代の武装集団墨子集団について書いてあります。兼愛は身分に基づかない平等の愛のことで、キリスト教の博愛と概念的に近いものとされます。墨子は何かと極端な感じがしますが、それゆえに儒学以上の危険思想だと始皇帝ににらまれて徹底的につぶされた側面があるんじゃないかな、と感じております。主流派にはなれなかったけれども、この戦国の時代に統治者の論理ではない民の論理を打ち出した墨子はやはりすごい人物だと感じます。

11月 アラン『幸福論』

アランは幸福論で、幸福は本来多様なもので、いろんな形があることを指摘します。対して不幸はあらゆる気分を神託として受け取ってしまうことで引き起こされるものだと言っています。不幸は自由な選択ができないときに生じるものだとすると、幸福は自由な選択ができたと感じたうえで選び取る上機嫌な礼儀作法だ、というようなことはアランは言います。自分の外側にだけ目を向ける人が不幸となってしまい、自分の内側に目を向けて現状を見れる人だけが幸福になれるのです。幸福になるには勇気がいります。だから月桂冠をその幸福になろうとした人たちにプレゼントすることが必要じゃないか、とアランは言っています。アランの考え方は何度も咀嚼することでさらに良い味がでて自分のなかでの見識が温まってきます。ぜひ読んでみましょう。

12月 司馬光『資治通鑑』

人選の面白さ、漢代後半の清流派の弾圧(党錮の禁)、侯景の乱、安史の乱などの一部をこの『資治通鑑』では取り上げられています。中国史出身のぼくはすべて興味深く読めましたが、侯景の乱における侯景の非人間性がすごい、と感じてこれをぜひ読んでほしいと思います。『資治通鑑』は編年体の記述を採用した宋代までの歴史を司馬光が整理して編纂した歴史書です。資治通鑑とは、政治に役立つ歴史の鏡、といった意味です。読んで学べるところが多い本です。

釣鐘じっくり読書会課題本2冊 

野中郁次郎『ワイズカンパニー』

SECIモデルを提唱した野中先生がSECIスパイラルモデルを提唱した新しい組織論を出しました。それが『ワイズカンパニー』です。HONDAやTOYOTA,京セラやJALなどからたくさんの学ぶべき点が書かれています。フロネシスという実践知を社員全員が共有できる形になった企業がやがて成功する、という前提があるように思います。ワイズリーダーだけではなく、そうしたリーダーが育つ環境や企業風土をどうつくっていくか、というのがこの本のメインテーマのように思えます。組織論の本としてはとても示唆的でいろんな可能性を考えざるをえません。

ピーター・センゲ『学習する組織』

システム思考という考え方を広げたセンゲの『学習する組織』。端的にいうと、何個かの円としてまわっているシステムがあって、そのシステムの構成要素をもらさずに書くことで、システム思考ができるようになろう、というのが第一段階の目標です。システムには遅れ(delay)があるという考えがとても大事で、特に効果的な対策で遅れが伴わないものはほとんどないので、短期的で対症療法的な対処法では効果が一時的で状況をむしろ悪化させる、と考えたほうがいいことが述べられています。こうした遅れという概念を意識するだけでとれる戦略などは大きく変わってくると思います。まだ読んでいる途中ですが、この本の方法はとても大事なことが書かれていることは確信しております。

〇自分の課題本1冊 

デカルト『方法序説』

デカルトの哲学の出発点が書かれています。この本を繰り返し読み、デカルトの学問の方法が後世に与えた多大なる影響があることを考えてみると、デカルトの考え方の画期性がわかってきます。ぜひ一緒に読書会しましょう。

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