人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

社会学について2 社会学の誕生の時代

2019/07/22
 
この記事を書いている人 - WRITER -
哲学エヴァンジェリスト。 東洋哲学や西洋哲学問わず、面白い哲学をあなたにお伝えします。
詳しいプロフィールはこちら

どうも、哲学エヴァンジェリスト高橋 聡です。今日も引き続き社会学についてあなたにお伝えしましょう。

社会学の誕生

Network 1020332 1920 1

社会学の父と呼ばれるオーギュスト・コントによって社会学は誕生しました。その後スペンサーの社会有機体説や社会進化論が流行した後、テンニースがドイツで独創的な社会概念を提出しました。

コントの社会学

オーギュスト・コントはその著書『実証哲学講義』の第4巻の中ではじめて「社会学」という名称を使いました。ここからコントはしばしば「社会学の父」と呼ばれます。コント思想の特徴を少しづつ考えてみましょう。

実証主義

コントの師はサン・シモンです。サン・シモンは実証主義、つまり憶測的なものより実証的なものの重要性を提唱した科学論者ですが、この実証主義は、コンドルセの理想主義やモンテスキューの科学的法律論に思想の痕跡を見ることができます。

コントはその師サン・シモンの影響を受けながら、社会現象を実証的に研究する学問を「社会物理学」と呼び、その後社会物理学を社会学と命名しました。

産業主義

師サン・シモンは社会を再組織化する新原理を産業と科学に求めましたが、コントはそれを継承しながら、産業の発展を通じて社会秩序を回復させようとする産業主義を提唱しました。コントはこのように産業革命を肯定的に見ていました。

社会静学と社会動学

社会静学とは現代でいう社会構造論、社会動学は現代でいう社会変動論と呼ばれるもの。社会静学は社会の秩序や構造を説明するもので、社会学を社会秩序を決定する法則を解明する学問と考えました。対して社会動学は社会の歴史的必然性を解明するもので、社会の進化に関する学問であると考えられました。

スペンサーの社会学

社会学の誕生を語る上で忘れてはならない人物がハーバート・スペンサーです。スペンサーは思想家ジョン・スチュアート・ミルからコントの社会学の存在を知らされます。スペンサーはそのコントの業績を発展させながら独自の社会学を提唱しました。スペンサー社会学の二大理論が社会有機体説と社会進化論です。

社会有機体説

スペンサーの社会有機体説では成長や構造分化、相互依存、進化などの側面に着目して社会と有機体(生物)には共通点があると考えました。そして、社会を有機体とみなし論を進めました。このことをスペンサーは社会と有機体の平行関係と呼んでいます。

平行関係を説明する例として、以下のようなものが考えられました。

①有機体の成長と人口の増大のような社会的成長

②有機体の器官分化による複雑化と、社会での成長に応じた部門数の増大、構造的分化が進むこと

③有機体は異なる諸器官を相互依存関係としてもっているが、社会も異なった役割を担う諸集団が相互依存会計をもつこと

④有機体が原生動物から高等動物に進化したように、社会にも未開社会から文明社会への進化、つまり社会進化がある

このような考え方からスペンサーは社会進化論を展開して、適者生存や自由放任主義を唱えました。

社会実在論

社会は実在しているとスペンサーは考えました。ここでいう実在とは、物質的に存在しているという意味ではなく、社会の書部分が常に関係を持ち合っているという関係の実在のことです。

社会進化論

スペンサーは生物が原生動物から高等動物に進化するように、社会も未開社会から文明社会に進化すると考えました。ここでいう進化とは、構造的に見れば、単純な構成物から多くのものが複雑に関係するものへの変化です。

社会進化論を支配という側面から考えると、強制によって社会が支配される社会から、商取引にように同等の者が対等に扱われる社会関係をベースに、双方が自発的に協力する共存的社会への変化でもあります。スペンサーの用語でいう軍事的社会は前者にあたり、産業型社会は後者にあたります。このように社会は軍事型から産業型へ進化する、ということになります。

テンニースの社会学

テンニースは人々を結びつけているものとは何かという問いから出発し、コントの三段階の法則やスペンサーの社会進化論とは別の視点から社会の近代化を説明しようとしました。

ゲマインシャフトとゲゼルシャフト

テンニースは社会の近代化とともに、本質意志によって結合するゲマインシャフトから、選択意志によって結合するゲゼルシャフトへ移行するという構図を示しました。

ここでいう本質意志とは、愛し合ったり、語り合ったりする、人間関係それ自体を求める意志です。選択意志とは、他者と交わる際に、特定の利害関係や選択的な目的を保とうとする意志です。本人の意図とは関係ないところで結びついているのがゲマインシャフトであり、本人同士の意図によって結びついているのがゲゼルシャフトです。

さらにテンニースは、ゲマインシャフトとゲゼルシャフトを止揚する新たな結合形態として成員の自由意志に基づく契約により成立するゲノッセンシャフトという協同組合に似た類型も構想しました。

ジンメルの形式社会学

社会名目論と社会実在論に関するジンメルの考え方

ジンメルは独自の考えで社会名目論と実在論の対立を克服しようとしました。ジンメルは個人主義的社会観を批判し、社会には「社会が社会となり得る本質的なもの」があると考え、それを社会的なものと呼びました。

ジンメルは実体としての個人概念を捨てることによって、名目論と実在論の論争に答えを出そうとしました。

それまでの社会名目論では、実態として存在するのは個人だけだとされてきました。しかし、ジンメルは、個人も諸要素の総和であり、その意味で社会も個人も同じだと考えたのです。このように個人が実態的なものではなく諸要素に分解されるものなら、それらを統一するものは何に求めればよいでしょうか。

ジンメルはそれを「相互作用」に求めました。

ここでいう相互作用とは、ある要素が別の要素との間に結ぶ共存や対立などの関係のことです。バラバラで相互作用がない状態には実在性はないですが、相互作用が生じると実在性が生まれて統一的なものになると考えたのです。

社会についても同じようにジンメルは考えます。社会も、その構成要素である個人の相互作用が生じることによって統一体としての実在性が確認されるというのです。

このようにジンメルは相互作用こそ実在を確かにするものであり、社会の本質であると考えました。社会を成立させているのは、個人でも社会でもなく、個々人の相互作用だと考えたのです。このように、社会を要素間の関係に還元する考え方を方法論的関係主義と呼びます。

社会学の位置付けに関するジンメルの立場

ジンメルは他の諸科学と違う社会学の独自性を相互作用の内容と形式に求めて、そのうち形式こそが社会学の対象だと考えました。形式とは人々の結びつきのパターンのことです。

ジンメルは政治学や経済学は内容を扱うが、社会学はそれらの現象に共通する形式を扱うべきと論じました。それゆえジンメルの社会学は形式社会学と呼ばれます。

総評

今回の記事では社会学誕生期の四人の人物を見てきました。これら先人の知恵は用い方を間違えば怪しい知識になる場合もありますが、概ね人間社会の、とくに西洋社会の歴史の発展をみれば大まかに正しいことを言っていると言って良いと思います。

社会学といってもすべての社会についての学問ではありません。コントやスペンサーが産業の発展から問題点を考えたように、主にヨーロッパ近代社会やそれに類する社会でのみ通用するのがこの時期の社会学です。とはいえ、とても示唆的な考え方も多いと思います。

たとえばテンニースのゲマインシャフトとゲゼルシャフト。集まる意図があるかないかで社会の形態まで変わるとはなかなかユニークな理論です。着眼点が面白いですね。

相互作用こそ実在性の要だとするジンメルの考え方もとても考えさせられます。たしかに人がたくさんいても、相互的に働きかけがなければ何も社会的営為といったものはないでしょうね。そうした点で、相互作用というものだけが社会学の範囲ではないでしょうが、相互作用も大きな社会学の範囲であるといっていいんではないでしょうか。

ジンメルの書籍の紹介

ジンメルの思想を知るためにお勧めの書籍をお知らせします。






『ジンメル・コレクション』 (ちくま学芸文庫)

ぼくが社会学や哲学に興味を持つようになった書物の一つです。それだけに、思い入れの強い本です。

ジンメルのエッセーの思考というべき文章のコレクションになります。

 

以上、ジンメルの本の紹介でした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

この記事を書いている人 - WRITER -
哲学エヴァンジェリスト。 東洋哲学や西洋哲学問わず、面白い哲学をあなたにお伝えします。
詳しいプロフィールはこちら

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© ニーチェマニア! , 2018 All Rights Reserved.