人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

西研著 NHKテレビ ニーチェ『ツァラトゥストラ』 2011年4月 (100分 de 名著) 第二回メモ

 
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"神の死"から"超人"へ
 「超人」…『ツァラトゥストラ』第一部・第二部のテーマ 《神に代わる新たな人類の目標》p36
●なぜ「神の死」がおきたのか?
 キリスト教が「真実を語れ」という教えを広め、その教えを人々が受け取った結果、人々は人間が神を作ったという真実を知ってしまったから。その点で、キリスト教が誠実さを育てたといえる。
 この誠実さから、科学的思考も生まれた。さらに、「自由の精神」も生まれてきた。《ヨーロッパ中に、どんな既成の常識にもとらわれず、みずから納得したことだけを受け入れて生きていこうとする「自由思想家」が次々と生まれて》きた。この自由思想家が、キリスト教のおかしな部分を批判することで、最終的にキリスト教は否定されるに至った。p38
●現代日本もニヒリズム
 《これまで信じられてきたヨーロッパの最高価値がすべて失われてしまい、人々が目標を喪失》…「ニヒリズム」と呼ばれる
 ニーチェ自身の言葉を借りれば、ニヒリズムとは《至高の諸価値がその価値を剥奪されること。目標がかけている。『何のために』の答えが欠けている》状態のこと。p40
 現代日本も、80年代以降、目標や方向性が見定まらない状態で、ニヒリズムにあると言える。
●「末人」
 末人とは、《憧れを持たず、安楽を第一にする人》のこと。つまり、《憧れや創造性を抱くことなく、安全で無難に生きることだけを求める人間》。p43 ニーチェはニヒリズムの時代に、こういう末人が増えるだろうといいます。
 こういった「末人」に至るコースを避けることができるのが、「超人」への道である。
 「重力の魔」(第三部「幻影と謎」)…《人が何を作り出そうが、みずからを高く投げようが、必ず最後にだめになる》というささやき。そして「意欲してならない」と人に思わせてしまう魔力。
 ツァラトゥストラ自身の教え―《「意欲は解放する。なぜなら意欲することは創造することだから。これがわたしの教えだ」》p46
●無への意志
 ニヒリズムをもう一度考える…最高価値を喪失することで、人はニヒリズムに陥るが、また最高価値を立てること自体も誤っていることで、それもまたニヒリズムである。
 《すべての苦がなくなり静けさのなかで憩うこと、つまり「無」を望んでいる》というのが無への意志。だが、ここには何の創造性のかけらもない、とニーチェは言う。p48
 民主主義・社会主義もまた、そういった意味でニヒリズムであり、創造性がないとニーチェは指摘する。ここに近代への強い批判がある。《それらのなかには創造性、苦しみを伴いつつも高まろうとする意欲がない》p49
 だが、ニーチェは創造性の条件として、近代の人権と民主主義を考える、という視点が抜けていたと著者は指摘している。
●精神の三段の変化
 「ツァラトゥストラ」には具体的に超人とは何なのかに触れられている場所がない。そこで参照にされるのが、精神の「三段の変化」(第一部)。
 第一段階 ラクダ 重い荷物を背負う。「汝なすべし」にしたがっている状態
 第二段階 獅子 「われ欲す」の意志をもち、「汝なすべし」という価値観を破り、新たな創造への地ならしをする状態
 第三段階 幼子 聖なる肯定。創造の遊戯を行なう。
●超人とは?筆者の主張
 ただ一人孤独の中で生き抜いていくイメージが強いが、そうではないと著者は言う。
 《そうした行き方のために大事なことのひとつは、「頼ること」を学ぶということだとぼくは思っています。》p54 ただし、それは同情を得たり、与えたりする関係ではない。《その人が自分の主体性をもちつつ「ここが必要なので助けてくれないか」といって助力を求めてきたときは、もしそれが自分にできる範囲のことなら助けてあげたいと思う。》こういう必要な助力を頼めることが、自立して生きていくために大切だという。
 第二に、《生き方のイメージとして重要なことは、尋ね合う関係をつくることだと思っています。「他者ときちんとキャッチボールできる関係があって、はじめて人は創造的になれる」というイメージをぼくはもっています》p56
 そして、そのおおもとには、「われ欲す」という意欲が重要である。それは、創造的に生きるということである。《個人が自立しつつ助け合い、語り合う。互いが共振し合い刺激し合うことで、溢れるような創造的空間が展開していく。》

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