自分を知るための三つの鏡|シリーズ100分de名著で読む『貞観政要』3
どうもこんばんは、高橋聡です。今回は『貞観政要』の続きを読んでいきましょう。『貞観政要』には太宗が良い意思決定をする際に考える「三鏡」というものがでてきます。「三鏡」こそ太宗が良いリーダーでいることができた大事な考え方の一つだとぼくは感じます。
それではこの「三鏡」、三つの鏡とは何かを見ていきましょう。
『貞観政要』本文から見る
「三鏡」の話が出てくるのは、魏徴の死後に太宗が魏徴を振り返って臣下たちに話をしたときです。『貞観政要』では巻二仁賢第三章魏徴にこのエピソードが載っています。
そもそも、銅で鏡を作れば、姿かたちを正すことができる。昔のことを鏡とすれば、国の興亡や衰退を知ることができる。人を鏡とすれば、自分の良い点、悪い点を明らかにすることができる。私は、いつもこの三つの鏡を持っていたので、自分の過ちを防ぐことができた。ところが今、魏徴が亡くなり、私はとうとう鏡の一つを失ってしまった。
(講談社学術文庫版『貞観政要』石見清裕訳注,p103-104)
ここで太宗は、人の上に立つ者は「銅の鏡」「歴史の鏡」「人の鏡」という三つの鏡を持つべきだ、というのです。
このそれぞれの鏡をぼくなりに解釈していきたいと思います。
銅の鏡|自分の姿かたちに誤りがないかを見て、それを正す
銅の鏡とは、自分の身なりを正すために使われる文字通りの鏡を指します。古墳によく銅鏡が出ますが、あれはもともと光を鏡として反射させて照らし出すために使ったり、銅鏡を受け取った権力者が自分の顔を正すために使われてた、と考えられています。それと同じで、銅鏡の銅を磨きまくると自分の姿が映るわけです。
人の上にたつリーダーは、陰気くさい顔ばかりしていてはいけません。元気のある顔でハキハキとしゃべって笑顔でいる必要があります。服装の清潔感ももちろん必要です。そうした自分の身なりに何か悪いところがあったらすぐに正せるように、リーダーは本物の鏡を見るべきだ、というのがこの銅の鏡が意味しているところです。
歴史の鏡|昔の時代に学んで、行動を正す
歴史の鏡とは、歴史に学ぶということです。歴史上のリーダーが成功した点、失敗した点、国の勢力が拡大している要因、衰える要因などを歴史から学び、それを実際のリーダーの活用にフィードバックすることをさします。
太宗のすごいところは、自分がかなり長い間平和な時代を作り出した実績をもっていながら、つねに謙虚に歴史に学ぼうとした点にあると思います。国のトップが20年に渡る平和と繁栄を築き上げると、どうしても傲慢になってしまうものです。もちろん太宗も完璧な人物ではないので、傲慢になって行動した節もあります。それが晩年の高句麗征伐であり、多大な出費と犠牲を強いながら、結局征伐は失敗します。とはいえ、そうした行動も反省をして活かそうとするところにこそ、太宗の偉大さがあるとぼくは考えています。
人の鏡|人に自分の行動を評価してもらい、よいことは実行し、悪いことはやらないように努める
人の鏡とは、人に自分のしようとしていることを評価してもらうことです。諫議大夫であった魏徴を失って太宗は人の鏡を失った、と失望しています。大事な部分だけを直言する才能というのは実はそれだけ貴重な存在だということなんでしょうね。太宗の偉大さはそういった直言を聞き入れて、自分の悪い点を常に正そうとした点にあると言っていいでしょう。
三鏡のまとめ
この教えを今の言葉になおせば、次のようになるでしょう。
- 鏡をみて、違和感を感じたら、すぐに正そう。(銅の鏡)
- 昔の事例をみて、今自分のやっていることと似ている点があれば、それが良いことか悪いことを精査して、良い行動と判断できたなら行い、逆に悪い行動と判断されたら中止を検討すること。(歴史の鏡)
- 人の意見を聞いて、今自分の行おうとしていることがおかしいことならやめる、理に適ったことだと納得できれば責任をもって遂行しよう。(人の鏡)
以上、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。