人文科学系、主に哲学の専門用語の解説を中心とした雑記集

社会学者M・ヴェーバーの主著『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に見る”宗教と社会の関係”

2021/05/13
 
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哲学エヴァンジェリスト。 東洋哲学や西洋哲学問わず、面白い哲学をあなたにお伝えします。
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どうもこんばんは、たかはしさとしです。本日は仕事で淀屋橋まで出勤しました。一応今やっている仕事が明日で区切られるため、ラストスパートでいろんな人や企業に電話をかけまくって、ほとんどリモートサポートの対応をしていた感じです。でも忙しいっていうのは、いいことだと思います。少なくとも暇よりかはだいぶいいように感じます。では本題に入ってまいりましょう。

マックス・ヴェーバーという人

前回はフランスの社会学者エミール・デュルケームを紹介いたしました。そのフランスのデュルケームは社会学の三大創始者に挙げられることがありますが、残りの二人がともにドイツの人で、マックス・ヴェーバーゲオルグ・ジンメルです。そんなマックス・ヴェーバーの主著『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を今回は取り上げようと思っているわけですが、簡単なヴェーバーの業績についても触れておきましょう。ヴェーバーは英語読みでウェーバーとも呼ばれることがあります。

1864年プロイセンで生まれたヴェーバーは、青年期にハイデルベルク大学やベルリン大学などで学問を学びました。ヴェーバーが学んでいた当時は社会学という学問名すら存在するか危ういもので、今日のようにアカデミズムの一角に社会学はありませんでした。そんな時代に育ったヴェーバーでしたが、社会学の学会などを組織して、ドイツの社会学を確立した人物だといっても過言ではありません。20世紀の学問の潮流に与えた影響は大きく、特にルカーチやフランクフルト学派、ヤスパースやタルコット・パーソンズ、日本においても丸山真男に大きな影響を与えました。

理念系や支配の諸類型や脱呪術化、苦難の信義論、幸福の信義論などヴェーバー独特の用語がたくさんありますが、最近はそれらも含めて考えると、ヴェーバーの力点が見えてくるように感じます。

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name=”CEGCx”>なお、ぼくも過去に自分のブログで書評を書いたことがあります。まだ当時は自分の気持ちと対峙しながら書く技術は習得しておりませんでした。書籍の本文などをまとめて書いたのが次のサイトです。


『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の書評を書きました


どうも哲学エバンジェリスト高橋 聡です。更新に日が空いてしまいましたが、ぼちぼち再開したいと思います。 今日は『プロテスタ


evangelist-st.com


当然ながら上記の書評と被るところもこの記事であるでしょう。でも大丈夫、その部分はとても重要な箇所だと思っていただければいいです。

ではさっそく『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』についてみていきましょう。まずはこの本の特徴を紹介することにしましょう。

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の特徴

ここまでいくらかヴェーバーのこの著作の名前『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』をタイピングしてきましたが、長い名前なので略しましょう。俗称は『プロ倫』と呼ばれていますが、ぼくはこの呼び方がなぜか好きではありません。よって、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を以後『倫理と精神』と略すこととします。

まず『倫理と精神』は何について書かれた書物ですか、と聞かれたら何と答えるべきでしょうか。ずばりぼくの答えはこうです。

『倫理と精神』は、西欧社会において資本主義が拡大し続けたのは、キリスト教、特にプロテスタントの信仰の内容と生活の態度とどのように関連付けるかについて書かれた書物です。

詳しくは本書を読むしかないですが、本書は資本主義の発展と特にカルヴァン派の信仰と生活態度とを関連して語っている本だと認識しておけばOKです。

次に『倫理と精神』を代表する3つのキーワードを挙げてください、と言われたらなんと答えるでしょうか。ぼくの答えを次に書きます。

『倫理と精神』の代表的なキーワードを3つ挙げるとすれば、「積極的禁欲」「天職」「労働」の3つを私は挙げます。

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name=”Hcnct”>この3つのキーワードを用いて本書『倫理と精神』を説明すれば、次のようになります。カルヴァン派の信仰においては、信徒は神に救われているというしるしを実践するために、今自分がしている事業や労働天職だと考えます。そして、積極的禁欲と呼ばれる西欧資本主義に独特の禁欲を行います。積極的禁欲とは次のようなことです。事業や労働によって得られた利益や賃金をできるだけ私的に使わずに禁欲をして、資本をため込みます。ため込まれた資本は積極的にさらに増資したり、次期の設備投資などに明らかに事業を拡大する用途で用います。

『倫理と精神』の面白いところ、役立つところはどこでしょう、と質問されたら何と答えますか。これは特に人によって千差万別の答えがあるでしょう。ぼくなりの答えはこうです。

『倫理と精神』の面白いところは、知的発見の体験がたくさんできるところです。本書はヴェーバーの研究の成果が詰まっており、脚注だけでも一つの論をなしているところが多々あります。本文、脚注ともに鋭い洞察の宝庫だと言っていいので、そんな見方ができたんだ、そういう事実があったんだ、という社会学的知性のすごさを感じることができます。

ここまでで3つの特徴を質問形式にして挙げてきました。実はこの質問、たいていの本に使える質問となっております。この質問に自分なりに答えてみるだけで、書評の一部が出来上がります。

『倫理と精神』における”倫理”と”精神”

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name=”odVTk”>本書の内容は実のところ題名『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に詰まっております。ここでいうプロテスタンティズムの倫理とは、積極的禁欲という生活態度のことです。資本主義の精神とは、労働者も資本家も勤勉に働くことです。近代西欧資本主義においては、勤勉性の正体はまさしく積極的禁欲だった、ということも可能でしょう。ただし現代に資本主義の勤勉性と比べたら、近代資本主義の勤勉性は全く性質を異にしているとヴェーバーは考えます。

ところで、この二つの事実、積極的禁欲がどう生まれたのか、勤勉に働くようになったのはなぜか、を徹底的に掘り下げたのが『倫理と精神』です。積極的禁欲がどう生まれたかは、すごく単純化していうとカルヴィニズムの二重予定説という考え方に行きつきます。カルヴィニズムの二重予定説とは、次のような考え方です。

”最後の審判において、救われる者と救われない者とはあらかじめ神によってきめられている(二重予定説の説明)”

救われる者と救われない者が決定されていると考えたら、怠惰な人なら人生を真剣に生きずに遊ぶようになるかもしれません。あらかじめ運命は決められているから、何をしても同じだ、と考えるわけです。

ところが勤勉な人からすると、現世で何をしても意味がないとするカルヴァンの教義は恐怖でしかありません。そこで勤勉な人は社会の役に立つ実感を得ることで、つまり勤勉に働くことで、自身の救いの確証を得ようとしたのです。彼らは単に勤勉に働いてえた結果を莫大な消費に回すことは決してしません。なぜなら神がつねに見ていると考えて、つつましい生活を送ろうとしたからです。これが積極的禁欲の正体となります。

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name=”rXtR5″>この二つが出てくるまで、さらに重要なのが天職という概念だとヴェーバーは考えます。天職という神から与えられた仕事を精一杯やるという概念があれば、上の段落の事実は進みやすくなります。つまり転職の概念は潤滑油の役割を担った、と言えるでしょう。そしてプロテスタント信徒が多い国々で天職という語は、神の召命という単語と全く同じ語なのです。

『倫理と精神』における宗教と社会

もともと『倫理と精神』はヴェーバーがアメリカに渡った際、そこで行われているあまりにも合理化された資本主義、たとえば生きた牛をすぐに肉に変えてしまう機械などを見て、驚いたことが原点にあると言われています。そもそもこうした合理化された資本主義はなぜ生まれたのだろう。ヴェーバーは常にそうしたことを考えていたのだと思います。そうした現代の資本主義の精神をさかのぼれば、アメリカ合衆国建国の思想家とよばれるベンジャミン・フランクリンの資本主義の精神に行きつきました。「時は金なり」のことばで知られるフランクリンの自伝には、勤勉性を推奨する文章がのせられています。

資本主義の精神の後ろに宗教があると見抜いたのがヴェーバーの洞察の深さでしょう。宗教、特にキリスト教カルヴァン主義の教えから生まれた積極的禁欲という倫理を見つけたのです。さらにさかのぼると、ルターの聖書翻訳にまで行きつきます。聖書を解釈して、ドイツ語に直す際に天職と訳した語が、西洋の資本主義の発展を引き起こしたものだったのです。

特殊な宗教的基盤やそこから生まれた生活態度は、確実に一人の信徒の行動を決定づけることがあります。『倫理と精神』で取り上げられる積極的禁欲と勤勉に働くことがその例です。

そうして一人一人が行動が決定づけられることで、社会的な現象が出現します。つまり『倫理と精神』でいう欧米社会における資本主義の発展という現象です。

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name=”QcPbc”>今回の記事では、あまりヴェーバーの用語にはこだわらずに、伝わりやすいように3つのキーワードを中心に『倫理と精神』について考えてみました。ではまとめましょう。

さいごのまとめ

一つの学問的論考を追うのは決して楽ではありません。それを文章化するのもそれなりに力がいることではあります。そしてそれを読むのもとても力がいることです。最後まで読み通していただき、ありがとうございます。

ドイツ社会学の創始者のひとりであるマックス・ヴェーバーは、『倫理と精神』において西洋社会の資本主義の発展を宗教的に説明してみせました。積極的禁欲と勤勉に働くこということは密接につながっていたのです。

最後に、覚えておいてほしいことがあります。労働者も経営者もともに勤勉に働くことがよいことだと考えられたことが、現代に資本主義の発展を支えてきたということです。

以上、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

勤勉に働く大事さを痛感している

たかはしさとし

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哲学エヴァンジェリスト。 東洋哲学や西洋哲学問わず、面白い哲学をあなたにお伝えします。
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Comment

  1. たかはしさん 今回もとても興味深い内容で勉強になりました。ありがとうございます。
    二重予定説の解説がとても参考になりました。天職(召命)という概念がベースにあるから積極的禁欲を進んで行うというお話はとても分かり易かったです。
    たかはしさんの記事を読んでいると、宗教、民族、社会学系に対する知的な関心が沸きあがってきます。今回の記事がきっかけで、思うところあり、マルクスの資本論を読んだ(途中で挫折しましたが(笑)時に作っていたノートを読み直してみました。
    このシリーズを執筆されるのはものすごく大変だと思われますが、これからも個人的にとても楽しみにしています。
    —–COMMENT:
    なかのひとさん
    ありがとうございます!
    まずは学問を知るには、専門用語を知ることから。概念を理解していただいてうれしいです。
    昔の自分の読書ノートを見なおすなどとても良いことですね。せっかく作ったノートだから、定期的に見直してあげましょう^^
    このシリーズの執筆は特に眠い時にやると、本当にすぐ眠くなります笑
    思ったことなどを書くより学問系の記事ははっきりいって反応はあんまりよくありませんが、自分の引き出し整理のためにも、少しずつ書いていきたいと思います。

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